子供たちがみんな大谷のシャツを着ているリトルリーグ

【ディラン】僕の年代は、マイケル・ジョーダンがみんなにとってヒーローだった。そのことが、僕らの世代が、その前の世代よりも人種偏見が少ない理由の一つだと僕は推測している。モンタナ州かどっかの人種偏見の強い家庭で育った子供が、マイケル・ジョーダンが好きすぎて、(黒人である)ジョーダンのようになりたいって思ったかもしれない。その人のようになりたいって思う気持ちは、思考を変える原動力になる。

僕の10歳の甥っ子は、地元のリトルリーグでプレーしているんだけど、彼の試合を見に行くと、子供たちがみんな大谷のシャツを着ている。みんな大谷みたいになりたいって言うんだ。その影響は、20年くらいは表れてこないかもしれない。でも、その子供たちが、憧れである大谷が14時間くらい寝ているなんてことを読んだら、僕もそうしなくちゃと思うかもしれない。

晴れた朝に野球のバット、手袋、ボール
写真=iStock.com/CHUYN
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そういうふうに、彼が持つ日本的な価値観みたいなものも、アメリカ人に紹介されていくかもしれない。それは僕にとって嬉しいこと。誇りにすら感じると思う。日本の方がずっといいと思っている部分もあるから。たとえば、算数の勉強の仕方とか、日本のやり方でやってくれないかと願っている。アメリカのやり方は、ほんとダメだから。

大谷はアメリカ人の日本人観を変えた

【トモヤ】野茂英雄、イチロー、大谷といった日本人選手は、アメリカにどんな影響を与えたと思う?

ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)
ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)

【ディラン】野茂はとてつもない人気だった。野茂が来たのは、多分ピークを過ぎてからだったんじゃないかな。それでも数年間は、素晴らしい投球を見せてくれた。野茂が来る前は、日本はアメリカの選手が行ってプレーする場所だった。それが野茂が来て、「日本のプロ野球もレベルが高いんだな」と知ったと思う。

イチローは、投手だけでなく、野手もメジャーで通用するんだと証明した。足も速かったから、日本人は技術だけじゃなくて運動能力もあるんだと思われるようになった。

大谷の登場は、まさにその次の進化だった。アメリカ人よりも大きくて、パワーがあって、足も速い。身体的に上回っている。それを受け入れるのに、4、5年かかった。それまでの偏見を大きく覆すものだったから。人というのは、分かりやすいカテゴリーに分類したがる。大谷も野茂やイチローと同じように、アメリカ人が持つ日本人観を変えたんだ。

ディラン・ヘルナンデス(Dylan Hernández)
スポーツコラムニスト

1980年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒。ドジャースとエンゼルスの地元紙ロサンゼルス・タイムズでスポーツコラムニストを務める。それ以前はサンノゼ・マーキュリー・ニュースに勤務。日本人の母を持ち、スペイン語と日本語も流暢に話す。

サム・ブラム(Sam Blum)
ジャーナリスト

1993年生まれ。シラキュース大学卒。2021年からスポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』のエンゼルス担当記者を務める。それ以前は、ダラス・モーニング・ニュース、デイリープログレス、トロイ・レコードでスポーツ記者として勤務。AP通信スポーツ編集者賞やナショナルヘッドライナー賞を受賞。

志村 朋哉(しむら・ともや)
ジャーナリスト

1982年生まれ。国際基督教大学卒。テネシー大学スポーツ学修士課程修了。英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。米地方紙オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで10年間働き、現地の調査報道賞も受賞した。大谷翔平のメジャーリーグ移籍後は、米メディアで唯一の大谷担当記者を務めていた。著書に『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』、共著に『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(共に朝日新書)がある。