今年2月、ENEOS(エネオス)ホールディングス傘下、ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の会長だった安茂氏が、セクハラ行為があったとして解任された。ENEOSグループでは2022年にもホールディングス会長だった杉森務氏が性暴力を理由に辞任、23年12月には社長だった斉藤猛氏もセクハラ行為で解任されている。コラムニストの河崎環さんは「これまで日本の『カイシャ』は日本人を甘やかし、自分で考えたり行動したりという自己管理が苦手な『カイシャイン』を大量に生んでしまったのではないか。その結果、コンプラ甘々の風土を許してきてしまったのではないか」という――。
2023年12月19日、ENEOSホールディングスの斉藤猛社長解任について記者会見する(左から)取締役の西村伸吾氏、社外取締役の西岡清一郎氏、取締役の塩田智夫氏、東京都中央区
写真=時事通信フォト
2023年12月19日、ENEOSホールディングスの斉藤猛社長解任について記者会見する(左から)取締役の西村伸吾氏、社外取締役の西岡清一郎氏、取締役の塩田智夫氏、東京都中央区

“名門”石油業界から漏れ出たトンデモ話

「ある石油系企業では、一般職女性社員の顔写真に巨乳グラドルの身体をコラージュした、いわゆる“アイコラ”が出回っていた」
「石油某社では、営業職女性社員が役員から慰労会の席でダンスに誘われ、『愛人になって』と耳元でささやかれたのを『幸せな結婚をしておりますので』ときっぱり断ったら、同じ社内の夫が地方転勤になり、自分が秘書課へ転属になりかけたので上司が大慌てで火消しをした」

風のうわさだが、20年ほど前にそんなトンデモ話を聞いたことがある。製造業に運輸業、小売りすら、あらゆる業界が石油なしでは立ち行かない。そんな「産業の血液」と呼ばれた石油を扱う企業は、もともと国策に非常に近いエネルギー系企業の中でも、戦後長らく日本経済を支え続ける重要なプレーヤーだ。

特に日本経済が好調の時代、石油業界は羽振りの良さや海外イメージに加え、民間企業でありながら半分は役所のような盤石の安定性とエリート意識とで、事実上半官半民状態の名門企業群だったのである。

「花嫁要員」だった女性社員

かつて、日本の大手企業には女性社員の採用枠に「一般職」と「総合職」の区別を設けるという、根強い習慣があった。一般職で採用されるのは有名女子短大卒などの女子学生で、彼女たちは男性社員のアシスタント的立場で事務職に従事し、やがて社内結婚をして「寿退職」していく。それが幸せの典型であり、女性としての成功であるともされた。

女性一般職社員は、「花嫁要員」。その時代の女性採用がどういう意識や基準で行われていたのか、そして女性社員の存在が組織の中でどのような位置付けと認識のもとにあったのか、想像に難くない。

「産業の血液」の販売を一手に握った、いわば経済界の勝ち組たる石油業界。男性社員が女性社員のプールから花嫁を「物色」して手に入れるという構図、そして女性社員への「そういう類いの視線」が、好景気時代の記憶とともに一種の成功バイアスで色濃く残っていたはずだ。