タワマンに住むと幸せを実感できにくくなる納得の理由

分析を行ったのは浙江大学のBianjing Ma氏らの研究で、中国のデータを用い、頭の良さと幸福度の関係を調べています(*5)。この分析の結果、やはり中国でも頭が良い人ほど幸福度が高くなるという関係は確認できませんでした。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)
佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

また、その原因について調べたところ、興味深い分析結果が得られています。

Ma氏らが注目したのは、住んでいる地域の人と比べた、相対的な社会的地位や年収との関係です。

実は幸福度の研究では、周りの人と比較して、自分の相対的な地位や年収が高いのか、それとも低いのかという点が幸福度に大きな影響を及ぼすことが長年指摘されてきました(*6)。仮に自分の年収が社会全体と比較して高くても、自分の住んでいる地域の人と比較して年収が低ければ、幸福度に大きなマイナスの影響があるのです。

日本でいえば、タワーマンションが良い例です。タワーマンションに住んでみたら、上層階の住人がお金持ちで、世間一般よりも稼いでいる自分たちでも、あまり満足感を実感できないという例があるかと思います。

これと同じような構図が頭の良い人でも見られるのではないかとMa氏らは考えました。頭の良い人ほど、年収も高く、世間から見てもよい場所に住むことができます。ただ、そのような地域ではより裕福な暮らしをしている人も多いため、どうしても自分たちが見劣りしてしまう。この結果として、幸福度が低くなってしまうのではないかと考えたのです。

この点を実際に分析してみると、頭の良い人ほど、実際の年収は高いものの、自分の住んでいる地域における相対的な地位や年収を低く評価する傾向があるとわかりました。この関係が背後にあるために、「頭の良い人=幸せ」という構図が成立しなくなっていると考えられます。

タワーマンション
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

頭の良さと幸せの関係は日本では未解明

これまで見てきたとおり、頭が良い人ほど幸せという関係は確認されていません。この点に関する研究は、欧米諸国のデータを用いている場合が多く、日本ではどうなっているのかという点が気になるところです。

残念ながら日本ではほぼ研究例がなく、その実態はわかっていません。おそらく、認知能力と幸福度を同時に調査したデータがあまりないことが原因だと考えられますが、今後この点に関する研究の進展が期待されます。

(*1) 橘玲(2016)『言ってはいけない 残酷すぎる真実』新潮社
(*2) Chiappori, P.-A., Salanié, B., & Weiss, Y. (2017). Partner choice, investment in children, and the marital college premium. American Economic Review, 107(8), 2109–2167.
(*3) Veenhoven, R., & Choi, Y. (2012). Does intelligence boost happiness? Smartness of all pays more than being smarter than others. International Journal of Happiness and Development, 1(1), 5–27.
(*4) Pollet, E., & Schnell, T. (2017). Brilliant: But what for? Meaning and subjective well-being in the lives of intellectually gifted and academically high-achieving adults. Journal of Happiness Studies, 18(5), 1459–1484.
(*5) Ma, B., & Chen, L. (2024) Why is Intelligence not Making You Happier? Journal of Happiness Studies, 25, 14.
(*6) McBride, M. (2001). Relative-income effects on subjective well-being in the cross-section. Journal of Economic Behavior & Organization, 45(3), 251–278

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。