1993年の設立以来、医療、小売、製造などの仕事現場で活躍するPCを開発・販売し続けてきたエプソンダイレクト。「お客様に寄り添って困りごとを解決する」をモットーに成長を続け、近年では環境問題への取り組みを推進していることでも知られている。設立30周年を迎えた今、次の10年に向けてどう歩みを進めていくのか――。これまでの歴史や製品・サービスに込めた思い、今後の展望などを、代表取締役社長の一杉卓志氏に聞いた。

先進的な製品とビジネスモデルでPC市場を牽引

【一杉】エプソンダイレクトの原点は、セイコーエプソンが1977年に開始したPC事業にあります。この事業では、会計事務専用のいわゆる「特定用途」のオフィスコンピューターを皮切りに、持ち運べるサイズの小型コンピューター「HC-20」、PC-98互換機「PC-286シリーズ」など、先進的な製品を次々と世に送り出してきました。

そして1993年、DOS/Vパソコンの直接販売というビジネスモデルで新たな市場を切り拓いていこうと、セイコーエプソンからPC事業を独立させる形で当社が誕生したのです。その後はWindows PCの開発を進め、時流に合わせて製品やサービスを進化させてきました。

2006年には、「Endeavor」シリーズから超小型デスクトップPCを発売し、お客様にもご支持いただいて、今なお進化を繰り返しつつ販売を続けています。

2014年ごろからは、市場の変化に合わせて、開発・販売の軸足を徐々に個人のお客様から法人のお客様へと移してきました。現在も、医療・小売・製造業・制作クリエイターの方々などに向け、私たちの原点である「特定用途」の製品の開発・販売に注力しています。

エプソン販売時代から「お客様との対話」を最も重視

【一杉】私自身は1999年にエプソン販売に入社し、主に法人向けの営業を担当していました。当時はPCやプリンターは家庭向けの製品が全盛であり、オフィスではすでにPCを使って業務を行うのがスタンダードになりつつありました。

ですから、「次は絶対に法人向け製品の波が来る」という気概で仕事に取り組んでいました。お客様との対話からも、今後はビジネスの現場でもっとIT機器が活躍する時代が来るだろうと感じていたのです。

私は主にPCやプリンター、プロジェクターなどをご提案していたのですが、当時はまだこれらを同時に取り扱っているメーカーが少なく、エプソンとしてはその点が大きな強みになりました。数多くの商品を一度にご提案でき、お客様に喜んでいただけたことが強く印象に残っています。

業務の上では、ご要望に合った適切な商品を適切なタイミングでおすすめすることと、新製品も紹介はするけれど押しつけないように心がけていました。お客様の中には古い機種を使い続けたい方もいらっしゃいますし、営業としてはやはり購入したくなったときに声をかけていただけるのが一番。そうしたご要望をきちんと見極めようと、お客様との対話を大切にしていました。

一杉卓志(ひとすぎ・たかし)
エプソンダイレクト 代表取締役社長
1976年生まれ、長野県長野市出身。99年、エプソン販売入社。ビジネス営業企画部長、販売推進本部副本部長、スマートチャージSBU副本部長を経て、2020年4月にエプソンダイレクト取締役。22年4月から現職。

「お客様に寄り添って困りごとを解決する」を信条に

【一杉】今、お客様との対話を大切にする姿勢は当社の風土にもなっています。対話を通してお客様に寄り添い困りごとを解決すること、そして使い続けてくださっている方々の業務を止めないことを信条として、日々業務に取り組んできました。

例えば、当社のPCには、2003年からケースサイズを変更していないモデルがあります。技術が進んでも、本体サイズやインタフェースは従来のものをそのまま採用し続けているのです。なぜなら「サイズが変わると設置場所に収まらないので困る」「有線のほうが安定性も高く使いやすい」というお客様もいるからです。

メーカーとして、サイズなどを20年近く維持するのには難しさもありますが、私は変わらないことも大事だと思っています。これまでも当社は、製品を進化させる一方で「お客様にとっての価値」を実現することも重視してきました。今後も求めるお客様がいる限り、従来の製品もつくり続けていくつもりです。

そして、お客様が進化や変化を求めるときが来たら、しっかり対話を重ねてお客様とともに新たな段階へ進んでいきたいですね。それが「寄り添う」ということであり、この点こそが私たちの強みだと自負しています。

どれだけお客様の声を聞けるか、その声をどれだけ開発に生かせるか。これはモノづくりの会社として最も大事なことです。当社では、お客様の意見や困りごとに対し、営業や技術開発メンバーを含め全社一丸となって解決に取り組んでいます。この姿勢が、お客様からの信頼や評価につながっていると実感しています。

「プラグの差し込み口一つとっても、なくなると困るお客様がいる。形だけ見ると古く思われるかもしれませんが、変わらないことにも意味があるんです」と一杉社長。製品について語るまなざしは愛情たっぷり。

原点である特定用途分野の開発・販売に注力

【一杉】先にお話しした通り、現在は法人のお客様を主として、特定用途向けの開発・販売に力を入れています。個人のお客様の場合は選ぶ人、買う人、使う人が同じですが、法人ではそれぞれ違うため困りごとも多岐にわたります。この点には難しさも感じていますが、対応経験を重ねることで課題解決力は着実に向上してきています。

解決力が向上したと実感するのは、同じお客様から次も当社を使っていただけたときです。前回の困りごとを解決できたと評価していただけた、前回に提供した価値がご要望に応えるものだったということですから、これ以上うれしいことはありません。こうしたケースを積み重ね、特定用途分野の事業は順調に伸びてきています。

ただ、課題もあります。エプソンダイレクトの製品は、一般の人の目に触れにくい「仕事の現場」で使われることが多いため、認知度があまり高くありません。もちろん現場でお役に立てていることを誇らしく思っていますが、今後は認知度の向上に向けた取り組みも強化していく必要があると思っています。

環境問題への取り組みはモノづくり企業の使命

【一杉】セイコーエプソングループは環境への取り組みを重視しており、2050年までに「カーボンマイナス」「地下資源消費ゼロ」の達成を掲げています。私たちも、この目標達成を最優先課題として取り組みを進めています。

そのため、生産過程での環境負荷低減とともに、お客様のもとでの環境負荷低減にも力を入れています。具体的には、従来廃棄していた部品を活用したリファービッシュPCの販売に加えて、お客様に対して今お使いの専用機を、CO2削減などの観点から省電力性の高いPCに置き換えることをご提案していこうと考えています。

環境問題への取り組みはすでに待ったなしの状況です。私自身、モノづくりの会社にとっては使命だと捉えていますし、経営者として絶対に進めていかなければならないと決意しています。

しかし、お客様は環境負荷低減だけでなく、価格面や性能面でのメリットも望まれています。環境面での価値とお客様にとっての価値をどうつなぎどう両立していくか。この点はこれからお客様と一緒に考えながら、例えばPCという「モノ」の販売にお客様にとっての価値である「コト」を組み合わせて提案するなど、工夫していきたいと思っています。

そのためには、当社の製品を導入することでお客様にどんなコトが起きるかを想像した上で提案することが大事になります。今後はこうした想像力も強みにすべく、モノとコトを掛け合わせた「お客様視点での提案」を全力で追求していきます。

共創の力でより大きな社会課題に挑む

【一杉】環境問題を含む社会課題はこれからさらに大きくなっていくでしょう。今後の課題は、今の取り組みをいかにしてスピード感を持って進めていくかということです。

私たちだけで進めていくのでは推進力に限界がありますから、これからは思いを同じくする企業や人々と連携を強め、ともに取り組みともに成長していきたいと考えています。こうした「共創」の力でより大きな社会課題を解決できるようにしていきたいですね。

エプソンダイレクトは2023年に設立30周年を迎えました。これも当社を支持してくださっている皆様のおかげです。今後もより多くのご支持をいただけるよう、お客様のビジネスにしっかり寄り添いながら歩み続けていきたいと思います。