女性幹部の嫉妬心はそれ以上にすさまじい

ただし、意外だが同性の女性の妬みや嫉妬も強いという。金融業の人事部長はこう語る。

「女性部長たちの中には、なぜ彼女が役員に選ばれて私が選ばれないのよ、といった不満と嫉妬が出ましたね。社長の覚えがめでたく、その関係で引き上げられたと思ってしまうのです。男性役員もそう思っている人もいるかと思いますが、女性幹部の嫉妬心はそれ以上にすさまじいです」

女性が昇進すると、男性だけではなく、ライバルの女性にも敵視されるはめになる。女性の敵は女性ということだが、女性幹部ほど下の女性に厳しいという指摘もある。サービス業の人事部長は子どもを産み育てた経験のある女性でも上の役職者ほど若い女性に冷たいと、こう語る。

「当社の女性役員は仕事量も多いし、夜遅くまで仕事をしています。若いころから子どもの面倒は家族に見てもらい、自分は男性に負けずに猛烈に働いてきた人たちが多い。あるときその役員に『女性の時短勤務者が多くて人事も大変です』と言ったところ、突然『甘えてんじゃないわよ!』と怒りだしたのには驚きました。彼女から見れば、育児で休むとか、早退するというのは納得がいかないのでしょう」

たとえ子どもを産み育てた経験を持ち、バリバリ働いているとしても、こういう女性役員は若い女性からはロールモデルにならないだろう。

日差しが差し込む会議室
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女性部下を一刺しする「女王蜂症候群」

実は「女性の昇進を阻むのは女性」という学説もある。より高い職位にある女性が、下から這い上がってくる女性を“一刺し”してしまう現象は「女王蜂症候群」と呼ばれている。立教大学経営学部の中原淳教授らが調査の中で「女性の昇進を阻もうとする女性幹部・管理職がいたか?」と質問したところ、「いた」と答えた男性は4.4%だったが、女性は9.4%と倍以上の結果となった。

中原教授は「有望な女性を潰そうとする女王蜂症候群は、男性の気づかないところに発現している可能性がある」と指摘し、こう述べている。

「『女王蜂症候群』の典型的光景は、男性部下にすでに囲まれ、地位を固めた女性の上級管理職が、その地位を脅かしかねない下級管理職の女性の追撃を恐れて行うというものです。このほかに、あまりサポートのなかった時代に孤軍奮闘して子育てを全うした上級管理職の女性が、いままさにさまざまなサポートを利用して子育てを行っている女性を、知らず知らずのうちに攻撃してしまう“亜種”も存在します。この亜種は、もともとの概念の解釈には存在していませんが、現代社会においてよく見られる光景と言えます」(中原淳/トーマツイノベーション著『女性の視点で見直す人材育成 だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』ダイヤモンド社)。

今の日本で女性がガラスの天井を突き破るには、周りの男性の嫉妬心や妬みだけでなく、女性すらも抵抗勢力となりうる。そんないばらの道を突破してきたことが想像できるだけに、今回の新社長就任は「現場のCAに勇気を与える」と称賛されているが、まだまだそんなきれいごとだけでは語れないものがある。サプライズ人事を行った前任者含めたサポート体制を期待したい。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。