自己研鑽の時間がほとんどない

現状を見ると、日本の普通のビジネスパーソンの仕事対勉強の割合は、よくても9対1くらい、下手をすれば10対0くらいではないでしょうか。ここでいう「勉強」とは、もちろん受験勉強などではなく、読書などを含む自己研鑽じこけんさんのことです。

21世紀になったいまでも、なぜそのような状態が解消されないのか。そこにはさまざまな原因がありますが、ひとつには日本の組織の中には「組織に対する忠誠心の貯金」のようなものが存在するからだと思います。この「貯金」の増やし方はさまざまで、業績を上げるという正攻法以外に、身も心も会社に捧げるといった高度成長期的な手法がいまだに機能しているように思います。

つまり、徹底的に忠誠心を示す、その代償として自己を犠牲にすることで、その組織の一員として認められていく。そしてそれを「社内預金」として長年かけて積み立てることで、組織の中をだんだんと上がっていくということです。

長時間労働がその典型ですが、そのほかにも上司との飲み会、接待、ゴルフ、麻雀などもそれに当たります。長時間労働によって「貯金」は徐々に貯まっていきますが、残念ながら、それは社外ではまったく通用しません。いわば、会社内部という場でしか通用しない地域通貨のようなものです。

コーヒーとメモのイメージ
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30代後半以降に急に求められる「人間力」

また、同じ会社内部であったとしても、30代後半以降に求められる、組織において人を動かすマネジメントにおいては、より深い人間理解に基づく対人能力が求められます。

普通の組織であれば、30代前半までと30代後半以降では、そもそも評価体系がまったく異なります。端的に言うと、前者はプレイヤーとしての能力や事務処理能力などが評価され、後者はマネージャーとしての能力や「人間力」に重点が置かれます。

ですから、たとえ前者の能力に秀でていても、後者に評価が転換していくことに気づかない人は、そこで打ち止めになってしまうわけです。

しかし残念ながら、それまで何も考えていなかったことを急にやれといわれても、簡単にはできません。いざ「人間力」を身につけようとしても、何もないところから「人間力」が出てくるわけでもありません。「人間力」というのは、時間をかけて自分の中で反芻することで、少しずつ熟成していくものだからです。