バイオ・抗体医薬品やがん領域における国内のリーディングカンパニーである中外製薬。2030年に到達するべき姿として「ヘルスケア産業のトップイノベーター」を掲げ、その基盤となる“自律型人財”の育成に力を注いでいる。そしてその中で、社員の自主性を引き出し、成長を支える手段の一つとしているのが「Check in」と呼ぶ1on1ミーティングだ。なぜ上司と部下の対話が重要なのか。対話の質を高めるために何をすべきか。同社の矢野嘉行氏と、そのメリットが高く評価される1on1支援ツール「INSIDES」で取り組みを支えるリクルートマネジメントソリューションズの荒金泰史氏が語り合った。

上司と部下の本音の対話が“自律型人財”育成の鍵に

写真右=荒金泰史(あらがね・やすし)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
HRM統括部 HRMサービス開発部
INSIDESエンタープライズグループ マネジャー

写真左=矢野嘉行(やの・よしゆき)
中外製薬株式会社
上席執行役員
人事、EHS推進統括 人事部担当

「指示統制型」から「自律支援型」に

【荒金】中外製薬が自律型人財を重視する背景には何がありますか。

【矢野】事業環境が激しく変化し、何が正解かも定まっていない時代の中で、連続的にイノベーションを起こすには、やはり自ら考え、行動できる人財が求められる。従来の延長線上にはない発想で、新たな価値を生み出せる社員が欠かせません。

【荒金】そうした人財を育成するには、マネジメントの在り方も刷新する必要があります。効率性が優先されたかつての大量生産の時代は「指示統制型」が適していましたが、上意下達では自律心や創造性は育まれにくい。

【矢野】そのとおりです。そこで私たちは「自律支援型マネジメント」を推進し、上司が部下の挑戦や成長を促すことを重視しています。ただ、一口に自律といっても、会社が目指す方向と個人の思いやキャリアはリンクしている必要がある。その意味で両者の対話は非常に重要になります。

【荒金】そこで1on1を大事にされているわけですね。当社の調査(※)では、大手企業のおよそ7割がすでに1on1を実施しています。しかし中には、現場に目的が浸透しておらず、雑談レベルのやりとりになってしまっている企業も見られます。

【矢野】重要なのは優先順位です。単に対話の場を設けただけでは、結局業務の話になりがちで、将来的なビジョンやプランまで及ばない。そこで当社では、キャリアやケイパビリティなど対話のテーマを明確にし、数十分でも中身の濃い話ができるようにしています。加えて大切なのは、社員ごとに考え方や悩みは異なるため、上司がそれを踏まえて話すこと。そこで役立っているのが、部下の状態やタイプを可視化する「INSIDES」です。

※リクルートマネジメントソリューションズ「1on1ミーティング導入の実態調査」(2022年4月)より。

「部下を理解している」との思いはリスクにも

【荒金】「INSIDES」は、部下と思うように話せない、もっと部下の気持ちを引き出したいというマネジャーに有効な1on1支援ツールです。当社が約60年にわたり培ってきた人事測定技術に基づくアンケートで部下の心理状態や性格タイプを明らかにし、アドバイスも含めて上司にレポートします。

【矢野】部下の調子が良くない場合、その要因が仕事にあるのか、職場にあるのか、上司にあるのかなども測定してくれますね。さまざまな側面から内面を示してくれるので、上司はそれに応じて対話ができる。「思ってもいなかったことに気付かされることもある」といった話をよく聞きます。

【荒金】大事なポイントです。「自分は部下を理解している」という上司の思いは大きなリスクになりかねない。例えば、実は悶々もんもんとした状態にある部下に仕事のやりがいを尋ねても逆効果です。今は仕事に対する価値観も多様化し、個々の本心を見極めるのは難しい。そこで客観的なレポートが力を発揮します。「INSIDES」には相談機能もあり、当社の専門家に対話の糸口や適した対処法など、マネジャーの方は気軽にアドバイスを受けられます。

【矢野】部下を持つ者は皆、一人一人の主体性を高め、成長を促したいと本気で考えている。そうした中、第三者のアドバイスを聞ける環境があるのはありがたいですね。

社員の状態の変化を“時系列”で把握できる

【荒金】矢野さんご自身にはマネジャークラスの部下の方が何人もおられますが、意識していることはありますか。

【矢野】「INSIDES」では組織の状態も確認できますから、悶々としている社員が多いようなチームのマネジャーには努めて声を掛けています。そこでとても有効なのが、“時系列”で社員の変化を把握できる点です。1on1を継続的に行うことで情報は蓄積され、移り変わりを見ることができます。すると、表面的には前向きでもある時期から落ち込み始めている社員などを見つけられ、早い段階で対応もできる。これは、上司にとっても人事部門にとっても、大きな意味を持ちます。

【荒金】個人から組織全体まで、また時系列で、多様な切り口で人財の状態を確認できるのが私たちの仕組みです。1on1の実践支援を基本に、目的に合わせて活用いただけます。初めのアンケートは容易に答えられ、パーソナルレポートや集計データも、ユーザーが見やすく、便利に利用できるよう工夫しており、支持を頂いています。

【矢野】1on1を重ねる中で、マネジャーの言葉が指示型から「どうしたらいいと思う」といった支援型に変わってきています。今後は、「INSIDES」のデータと他の人事データを掛け合わせて分析もしていきたい。自律型人財の育成に有効な環境や対話を探り、組織文化のさらなる変革につなげていければと思います。

【荒金】とても有意義な取り組みです。1on1支援ツール「INSIDES」については、新たにeラーニングのコンテンツを用意し、マネジメントスキルのいっそうの向上を支えていきたい。企業が人財への投資を重視する今、その利用価値を高め、投資をしっかり成果に結び付けるサービスに今後も進化させていきます。

この記事では、人材の表記を中外製薬が使用している「人財」で統一しています。