自治体と多様な企業などが連携し、新たな価値創造に挑む「大阪スーパーシティ構想」をご存じだろうか。スーパーシティとは、大胆な規制改革と、データ連携基盤の活用による先端的サービスの実施で、2030年頃の未来社会の先行実現を目指すもの。22年4月、内閣府のスーパーシティ型国家戦略特区に大阪市域が指定。大阪府と大阪市は、市域の中で特に、大阪・関西万博の会場の「夢洲(ゆめしま)」、大阪駅北側の「うめきた2期」で事業を推進している。具体的にどのような取り組みを行い、何を目指すのか――。吉村洋文大阪府知事、横山英幸大阪市長に聞いた。
右=吉村洋文(よしむら・ひろふみ)
大阪府知事
1975年生まれ、大阪府出身。98年九州大学法学部卒業。大阪市会議員、衆議院議員を経て、2015年大阪市長に就任。19年大阪府知事に就任し、現在2期目。
左=横山英幸(よこやま・ひでゆき)
大阪市長
1981年生まれ、香川県出身。2004年関西学院大学経済学部卒業。同年大阪府庁に入庁。11年に大阪府議会議員となり、3期を務める。23年大阪市長に就任。

住民QoLの向上と都市競争力の強化が目的

――「大阪スーパーシティ構想」の概要や目的から教えてください。

【吉村】大阪市内の二つのグリーンフィールド(※)において、「夢洲コンストラクション」「大阪・関西万博」「うめきた2期」の3プロジェクトを展開します。大きな目的は、住民QoLの向上と都市競争力の強化。将来的には取り組みの成果を大阪府全域や全国へ波及させていきたいと考えています。中でも力を入れているのはデータ連携で、データ提供者と利用者共に利用しやすい環境を整備し、積極的なデータ流通を促進していきます。

【横山】2025年開催の大阪・関西万博に先立って将来的なまちを紹介するべく、24年9月に先行まちびらきを予定している「うめきた2期」では来街者の利便性向上に資する先端的サービスを段階的に提供しながら、それを他地区でのまちづくりにも活用していく考えです。

――「未来社会の実験場」をコンセプトとする万博の会場「夢洲」では、どのようなプロジェクトを進めますか。

【横山】万博会場や関連インフラの整備で、民間事業者と協力しながら、「建設工事現場内外の移動」「建設工事・資材運搬」「建設作業員の安全・健康管理」の円滑化を図るのが「夢洲コンストラクション」です。AIによる顔認証での作業員の入退場管理、ドローンを使った測量・工事管理、データやセンシングによる局所的な気象予測などが実施されています。

――空飛ぶクルマや自動運転などの取り組みも話題になっています。

【吉村】空飛ぶクルマについては、2025年日本国際博覧会協会が会場内ポート運営事業者と運航事業者を発表しており、国や同協会と連携して万博での二地点間運航の実現を目指しています。自動運転バスについては、万博での実現に向けた課題の検討・調整を実施中です。

さらに、大阪府市が産学官の力を結集し、オール大阪で出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」では、大阪・関西の強みを生かし、最先端の医療技術やライフサイエンス産業が創り出す近未来を展示予定。「いのち」や「健康」の観点から、明るくワクワクする未来社会のモデルを世界の人々に発信していきたい。

――「うめきた2期」エリアでの取り組みについて教えてください。

【横山】「『みどり』と『イノベーション』の融合拠点」を目標に、国際競争力の向上を目指し、質の高い都市機能を集積させるべく、取り組んでいます。サービスの具体例として、現実と仮想空間を重ね合わせるMR技術を用い、「みどり」の空間で多様なテーマの世界を体験できるイベントを検討。23年10月には、トライアルの実証イベントが開催されました。また、南街区のゲートタワーに開設予定の温泉利用型健康増進施設では、ヒューマンデータとAI分析などによるエビデンスに基づく健康増進プログラムを25年上旬に提供できるよう準備しています。

※都市の一部区域などで、新たな都市開発を行い、住民を集めるエリア。

データ活用とサービス創出の好循環をつくり出していく

――力を入れているデータ連携の内容や計画を聞かせてください。

【吉村】大阪府は先端的サービスの実装や多様なデータ流通を促進すべく、大阪広域データ連携基盤(ORDEN)の運用を始めており、データ連携基盤に求められる互換性・安全性・プライバシーに関する事項を満たした上で、23年10月には内閣総理大臣から認定も受けました。事例として万博工事のデータ等を活用した交通量予測に基づく工事車両のピークシフト誘導等を検討。また、国はスーパーシティの取り組みの成果を全国に展開する方針です。それを受け、大阪府ではデータ連携基盤のORDENを横展開し、自治体間での共用化を目指しています。

――先端サービスの実現にはスタートアップ企業の参画も欠かせません。どう支援していきますか。

【横山】うめきた地区の「大阪イノベーションハブ」でスタートアップの創出・成長に向けた支援プログラムを提供しています。今後成長が見込まれるカーボンニュートラルなどの技術を持つスタートアップは注目の対象。そうした企業が万博を契機に活躍し、大阪の持続的成長につながることを期待しています。なお、内閣府のグローバル拠点都市として国の支援を受けながら大学の最先端研究をビジネスに活用するスタートアップの成長支援も推進中です。また、認定区域計画を踏まえ、外国人起業家の受け入れ促進のための環境整備も進めることにより、世界をリードする企業の誕生を目指しています。

――最後に、それぞれから今後の抱負をお願いします。

【吉村】データ活用や規制改革によって大阪の可能性はどんどん広がっていくはずです。ORDENを土台とするデータ活用が新たなサービスを生み、それが多様なデータ活用を生む。そんな好循環をつくり出し、住民の皆さんに便利さを実感してもらえるよう取り組んでいきます。

【横山】構想のさらなる発展には、先端的サービス実現の主軸となる民間事業者の皆さんと環境整備を担う私たち地方公共団体が一体となって知恵を絞ることが重要です。それによって万博の成功はもとより、住民のQoLと都市競争力を向上させ、新しいサービスが次々に生まれる、そんな未来社会の先行実現に向けた取り組みを今後も進めていきます。

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