若年層の顧客をなんとか獲得したい。そんな課題を抱える企業から抜群の支持を得ているのがVintomだ。ダンス事業と飲食事業を手掛ける同社は、なぜ若者たちの心をつかむことができるのか――。愛甲準社長に聞いた。

“人に伝えたい”と思わせる仕掛けを施す

「若年層の情報感度は非常に高く、作り事には反応しない。SNS上でも、投稿者が本当に感動、共感していない話題はバズりません。その意味では、100万フォロワーのインフルエンサーの一つの投稿より、1000フォロワーの1000人の投稿の方がずっと拡散力は強く、広告効果も高いのです」と愛甲社長は言う。実際、Vintom主催のダンスイベントに協賛した企業からは「これまで自社商品について100件の投稿を集めるのにも苦労していたが、すぐに数千件の投稿が上がり驚いた」との声が聞かれるという。イベント参加者が協賛企業へ高い支持や信頼を示した結果である。

愛甲 準(あいこう・じゅん)
株式会社Vintom
代表取締役社長
慶應義塾大学環境情報学部を卒業し、サイバーエージェントに入社。その後、テレビ朝日に出向。2015年にVintomを創業。

「実は今、ダンスは若者の間で圧倒的な人気を誇り、Z世代のマーケティングで欠かせないものとなっています。当社は大学ダンスサークルの日本一決定戦など年間30本以上のイベントを全国で開催し、その動員数は5万人超。これまでNIKEやX-girlなどのアパレル、レッドブルやポカリスエットなどの飲料、またTik Tokやパナソニックなど、若者世代にリーチしたい多様なブランドに協賛いただき、パリ五輪にブレイクダンスが採用されたことから注目度はより高まっています」

ダンスとプロモーションを掛け合わせ、画期的な事業モデルを構築した愛甲社長。柔軟な発想力で、もう一つ力を注いでいるのが飲食業だ。東京・中目黒のクラフトビールカフェは、独自の戦略で業界からも関心を集めている。

「コロナ禍でダンスイベントを開けず、飲食業に進出しました。徹底的に顧客と向き合ったことで売り上げはV字回復。今は多店舗展開を進めています」

成功を支えたのは、まさに顧客を真に楽しませるノウハウだ。25種以上のビールをそろえ、店内に暖炉を設置したり、コースター代わりに各ビールの味などを記したカードを使ったり。随所にこまやかな工夫を施している。それが口コミの輪を広げ、最大の広告ツールになっているのである。

ダンスイベントで培った空間づくりや仕掛けづくりを強みとする同社は、すでに次なる戦略も描いている。リゾートホテル事業への進出だ。既存のホテルを数多くリサーチし、「室内デザイン、料理、接客など、できることはまだまだある。お客さまをワクワクさせる“リアルな体験”が決め手となる」と愛甲社長。「自然と“人に伝えたい”と思ってもらえる空間やサービスを実現できるかどうかが事業の成否を分けるはずです。この点において、私たちは確かな実績と自信を持っています」

“自分のためでなく、誰かのために”をミッションに掲げ、着実に人員と事業を拡大しているVintom。デジタルの時代だからこそ、「人の気持ち」を中心に置いてビジネスを展開する同社が、今度はどんな感動を呼び起こすのか。これからが楽しみだ。