天然ガスを原料とするメタノールやアンモニア、プラスチック、合成繊維、医薬原料など、多様な製品を製造する三菱ガス化学。1971年に三菱江戸川化学と日本瓦斯化学工業が合併して誕生した同社は、「基礎化学品」「機能化学品」の二つの事業部門を持ち、現在海外にも28の拠点を構えている。独自の技術を生かした世界的な製品も多く、今年度のグループ売上高は8000億円を超える見込みだ。日本有数の化学メーカーは、現状の事業環境をどう捉え、何を目指しているのか――。藤井政志社長に聞いた。

差異化戦略や提案型ビジネスを重視

――三菱ガス化学として、どのような社会の構造変化に注目していますか。

【藤井】気候変動と情報社会の進展、この二つは注視すべき変化であり、当社にとっては大きなビジネスチャンスでもあると考えています。まず気候変動においては、「脱炭素」が重要なテーマとなっており、CO2やその他の物質に含まれる炭素をうまく活用していく局面で、化学会社に期待が寄せられています。長年にわたり天然ガスを出発点とするC1化学(※)に取り組んできた当社なら、CO2を原料とした化学品の製造やCO2の回収・貯留(CCS)を通じてカーボンニュートラルに貢献できる。すでに社内で多様なプロジェクトが進行しており、NEDOの事業である「グリーンイノベーション基金」にも二つの取り組みが採択されています。

藤井政志(ふじい・まさし)
三菱ガス化学株式会社
代表取締役社長
1981年に大阪大学経済学部を卒業し、三菱ガス化学に入社。総務人事センター長、執行役員 天然ガス系化学品カンパニー有機化学品事業部長、取締役常務執行役員などを経て、2019年より現職。

――情報社会の進展と事業との関係について教えてください。

【藤井】情報技術の進化において、重要な役割を果たすのが半導体です。コンパクトで高性能な半導体を製造するには、それを可能にする素材や原料が欠かせない。当社は、例えば半導体パッケージ材料や純度の高い洗浄剤などで、高度化する電子産業のニーズに応えています。

半導体に限らず、私たちの身の回りにあるもののほとんどは、何らかの形で「化学」の力を使い、作られています。その意味で化学メーカーは、時代の変化の兆しを読み取り、産業界や社会が求める新たな素材や材料を提供する、未来をけん引する存在といえます。社会構造の変化はまさに事業機会であり、私たちは常にそれをプラス思考で捉えています。

――「基礎化学品事業部門」の今後の展開についてはどう考えていますか。

【藤井】自社で天然ガスの資源開発を行い、製品開発から生産、流通までを一貫して手掛けられるのが当社の特徴です。その中で蓄積した技術、ノウハウを基盤に、これまで新たな価値を生み出してきました。基礎化学品というとすでに完成、成熟した事業のように思われるかもしれませんが、やり方しだいで他との差異化はまだ十分に可能です。

一例として、“メタノールの総合メーカー”でもある当社は、現在CO2や廃プラスチックなどをメタノールに変換し、化学品や燃料・発電用のエネルギーにリサイクルする「環境循環型メタノール構想」を進めています。すでに実験室レベルでは実現している技術ですが、当社は独自の触媒ノウハウを基に、効率良く量産する技術、多様な原料を用いるメタノール製造のための触媒技術を開発しました。

――「機能化学品事業部門」で重視していることを聞かせてください。

【藤井】マーケットの潜在的なニーズを見極め、提案型のビジネスを展開しています。例えば、半導体の小型化で課題となる“熱”に対応する高耐熱樹脂を開発し、「当社のものを使えば、これだけコンパクトにできる」といった提案を行っていく。電子材料用の洗浄剤についても、海外の大手半導体メーカーのトップと直接やりとりをして開発した実績があります。

食品の酸化を防ぐために世界に先駆けて開発したロングセラーの脱酸素剤「エージレス®」も、食品会社の切実な悩みを解決すべく生み出したものです。他にも優れた強度と耐熱性を持つ工業用プラスチックや高屈折率のスマートフォンのカメラレンズ用材料などが独自性を評価され、世界で高いシェアを確保しています。

※炭素原子を1個だけ含む物質から化学製品を合成すること。

他社の物まねをせず市場を変える製品を

――継続的に独自の技術や製品を生み出せる原動力は何でしょうか。

【藤井】当社の製品の90%以上は、自社の技術により作られています。その根底にあるのは、「他社の物まねをせず、新しいことにチャレンジしよう」「面白いもので市場を変えていこう」というスピリット。かつて、社会がオイルショックに直面した後、日本企業として初めてサウジアラビアでメタノール生産を開始したことなどは象徴的な取り組みです。一人一人が起業家精神を持って道を切り開こうとする意識が強く、それが組織の中でしっかり受け継がれている。これこそが三菱ガス化学の強みだと思っています。そして、新しいことにチャレンジする意欲を引き出すには、一人一人が達成感を持って仕事をすることが大事です。当社は従業員を大切にしています。従業員が楽しく働けることを重視し、給与面や人材育成面など時代に合った施策を積極的に進めています。

――社会課題の解決に向けた外部連携については、どんな形を目指していますか。

【藤井】カーボンニュートラルなどの課題は当然ながら一企業で解決できるものではありません。そこで一つ重要になるのは、業種を超えた連携です。例えば製鉄会社、エネルギー会社、自動車会社などと私たちが協働して取り組みを進めていく。化学を通じて国や地域も超えた社会全体の課題解決をリードしていくことが私たちの役割だと考えています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

【藤井】社会に不可欠な素材や原料を作ることで、その発展の一翼を担ってきたのが化学業界に他なりません。今後もミッションとして掲げている「社会と分かち合える価値の創造」を実践しながら、理想とする未来の実現に力を尽くしていきます。ぜひ、三菱ガス化学の取り組み、そして化学の力にご注目ください。