金融業界におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進で、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)の取り組みが勢いを増しており、最近の動きは瞠目に値する。そして、そのDX推進のリーダー役を担っているのが、みずほFGデジタル企画部長の藤井達人さんだ。〈みずほ〉のDX推進は、社外組織との共創事業にも広がり、様々な能力やスキルを備えた人材を必要としているという。現在の取り組みや、求められる人材像などについて藤井さんに話を聞いた。

“本気”で〈みずほ〉が取り組む、未来を創るDX

〈みずほ〉のDXを活用したイノベーションの創出が一気に加速し、多方面から注目が集まっている。企業や自治体が提供するアプリ上から、いつものサービスを簡単にキャッシュレス決済することができる「ハウスコイン」や、八丈島とともに取り組む行政サービスの効率化、センサーを活用した防災の高度化など、金融業界の内外における意欲的なDX事業が明らかになり、他行をはじめとする金融関係者の間からは驚きの声があがった。

そうしたなかで2023年6月、10年後の「未来予想図」を描きながら、〈みずほ〉全体のDX推進をリードしていくデジタル企画部に参画したのが、「DXの伝道師」と称される藤井達人さんであり、自身の入社の経緯について次のように語る。

「IBM、日本マイクロソフト、三菱UFJFG、KDDIなどで、基幹システムの開発や金融機関向けコンサル業務、イノベーションに向けたDX業務といった仕事に携わってきました。そうした外側から見ていて、みずほ銀行をはじめとする〈みずほ〉は、DXの取り組みにおいて少しおとなしい印象を持っていました。しかし、執行役副社長の梅宮真グループCDO(デジタル戦略・イノベーション推進責任者)と何度かディスカッションする機会をいただくなかで、一日も早くキャッチアップし、グループ全体での変革を起していくのだという、DX推進に対する“本気度”を強く感じて入社を決めました」

その藤井さんが取り組んでいる大きなプロジェクトが2つある。1つ目は「生成AIを活用した『内』と『外』の変革」だ。

今年に入ってから急速に浸透した新しいテキスト情報を生み出す生成AIを、〈みずほ〉では2023年6月に国内全社員へ導入。「Wiz Chat」と名付けられた“みずほ版のテキスト生成AI”は、「すでに社員の働き方に影響を与え始めている」と藤井さんは話す。

「例えば社員は一日に何度もメールやTeamsでコミュニケーションをとりますが、込み入ったトピックのメッセージに対する返信をするにはそれなりに時間がかかります。そういうときにまず『Wiz Chat』にメールやTeamsメッセージの内容を整理してもらうなど、壁打ち相手として役に立つと考えました。導入後の社員の反応を見ても、メールや報告書等のドキュメント作成や会議でのアイデア出し、データの整理といった様々な形で活用しているようです。翻訳作業やExcelマクロの作成といったタスクにも利用が広がっています。今後もグループ全社を上げて生成AIとの接点をつくるため、『Wizシリーズ』として、検索に特化した『Wiz Search』や提案書などのコンテンツ作成を行う『Wiz Create』の開発を進めています。先端テクノロジーを上手く取り入れることで、社員には創造的で価値の高い業務に集中してもらう。これにより、業務効率化だけでなく、新たなビジネスモデルやサービスの創出につなげていきたいと思います」

効率的な仕組みで仕事をして、短い時間で高いパフォーマンスと成果を挙げることで、職場で得られる経験価値「エンプロイーエクスペリエンス(従業員の経験価値)」を高めるためにも生成AIが活躍する仮説を立てているという。

「例えば、社員の多大な時間とリソースを要する『与信稟議りんぎ関連資料の作成』は、ワンクリックで稟議資料ドラフトを自動作成できる『稟議作成サポートAI』による作成プロセスの効率化・高度化をめざしています。このように、生成AIの活用により手間のかかる作業をある程度自動化することにより、業務効率と品質を高めることができ、結果的にエンプロイーエクスペリエンスの向上にもつながると考えています」

そう話す藤井さんは、各種のスマートデバイスを全従業員がフルに活用して、仕事の効率化と働きやすさを追求していた日本マイクロソフトで金融業界向けのDX支援をリードしていた実力者でもある。その経験が、現在進行中のプロジェクトでも存分に活かされつつあるようだ。これが「内」での変革であり、「外」の変革はお客さま向けのものである。

「ネットバンキングの利便性向上はもちろんのことなのですが、資産残高の状況に応じて、個々のお客さまにきめ細かい運用のご提案を行おうとすると、何千人もの人手が必要でした。しかし、生成AIを活用すれば、人手をかけることなく、高精度の提案を瞬時に、それも作成の限界コストがほぼゼロに近い形で実現できます。また、AIを活用することで、事務手続きの照会時間を短縮し、迅速な顧客対応も可能になっていきます。法人のお客さま向けのご提案についても、一人の人間では気がつけない切り口を、生成AIは膨大なデータから見つけ出して提案してくれます。その結果、『他行よりもいい内容の提案だね』と喜んでいただけ、より強固な信頼関係の構築につながっていくわけです」

株式会社みずほフィナンシャルグループ執行理事 デジタル企画部 藤井達人部長。外資IT企業や総合金融グループを経て、みずほフィナンシャルグループに入社。米国勤務の際にフィンテックの“萌芽”に接したことを契機に、金融業界の変革の渦中に飛び込んだ。『フィンテックエンジニア養成読本』(技術評論社)全体監修および共著。

DX推進がグループ改革の最前線となる

そして2つ目が「生成AI時代のデータガバナンス」の構築である。データ管理においては、社員が部署をまたいだ環境でもストレスなくアクセスできたり、過去の情報をすぐに引き出せるデータ基盤ができていることで、仕事は飛躍的に効率化する。生成AIの時代では活用すべきデータの種類が増えるため、データガバナンスを高度化させる必要があるという。

「生成AIの活用に当たって重要なのが、読み込むデータの質です。データの内容に間違いがないことはもちろんのこと、フェーズごとのデータを瞬時に取り出せるように予め整理をしておく必要があります。また、各種データの定義を明確にしたうえで、どのように保存しておくかといったルールの設定も重要です。こうしたデータガバナンスの構築が、生成AIをフルに活用するための大前提になるのです」

このようにメガバンク・みずほ銀行を中核にしたグループ全体の変革の最前線に立ち、重責を担っている藤井さんだが、気負った様子は微塵も感じられず、その表情はむしろ楽しげだ。金融業界の変革の渦中に飛び込んで、今まで蓄積してきた知見やスキルを、思う存分に活かせることに喜びを感じているようでもある。

風通しがよく、団結力もある。〈みずほ〉で描く未来予想図

「〈みずほ〉の特徴は『風通しのよさ』だと思っています。梅宮グループCDOは、時にはデジタル企画部の社員から直接報告を受けていますし、何か不明点があれば当人に尋ね、必要なアドバイスも求めることもあります。また、私たちの仕事は他部門との連携も必要なのですが、プロジェクトごとに臨機応変に部門をまたがったメンバーと仕事をすることもよくあります。メガバンクというとお堅い雰囲気をイメージするかもしれませんが、実際は私のようなキャリア採用の人であっても、働きやすい職場環境だと感じています」

そうした“自由闊達かったつ”な職場だからこそ、生成AIに加えてブロックチェーンやWeb3といった技術を活用した、大胆な10年後の未来予想図も描きやすくなってくる。そのなかで、業務やサービスの内容も、あるいは本部や支店のありようも、大きな変化を見せていくはずだ。そして「これから一緒にワクワクした気持ちで未来予想図を描きながら、その実現に取り組んでいく仲間が増えてほしいと願っている」と藤井さんは話す。

「いま、〈みずほ〉というグローバル金融機関が、全社一丸となって変革に取り組んでいます。この変革を推進することで得られる経験は、なかなか他所では得られないのではないでしょうか。プロジェクトマネジャー、プランナー、エンジニア、データサイエンティスト、どのような職種の方でも、自分の能力をさらに高めたい人にとっては、大いにチャレンジし甲斐のある場です。社内には、『GCEOチャレンジ』と呼ばれる、木原正裕グループCEOはじめとする役員に直接、新しい企画をプレゼンテーションできる機会もありますし、グループ内には新しいビジネスをゼロから創出するイノベーション特化の『Blue Lab』もあります。こうした環境で、変革にチャレンジしてみたいという方とぜひ一緒に働きたいと考えています」

「チャンスに満ちた環境の中で、経験と実力を存分に活かしたい」と思う人は、〈みずほ〉の“ドア”をぜひノックしてほしい。