「言われる側」の問題ではなく「言う側」が変わるべき

――いまだに職場でも、そういうプライベートな場でも、「うるさい」ことを言われてしまうケースはあります。そんなときはどう対応すればいいのでしょうか。

高瀬隼子『うるさいこの音の全部』(文藝春秋)
高瀬隼子『うるさいこの音の全部』(文藝春秋)

【高瀬】その場で「うるさい」と返したいけれど、言えないですよね。その人とはもう付き合いたくないと思っても、職場の上司とかお世話になっている人だと縁は切れないので、困りましたね……。相手も善意で良かれと思って言っている場合が多いとは思うけれど、「言われる側」の問題ではないはずで、本当は「言う側」が意識を変えてアップデートすべき。それなのに現実には「言われる側」しか困らないので嫌だなと思います。

――たしかに、「言われた側」が黙ってがまんするというパターンが多いですね。

【高瀬】「早く結婚しなさい」とか、そういう相手への押し付けをやめようよと思う人は増えているし、多くの人が意識して口や態度に出さずにいる中、言ってくる人は、昔から今に至るまでずっと一定数いて減らないし、いなくならないので、どうしたものかと思って見ています。私もふだん会社員としてはスルーしていることが多く、それをため込むだけだとしんどいので、小説に描いているのかもしれません。小説を書いているときだけは、自分の引っかかっていることが出せますね。

ときには他人に嫌われ注意もされるリアルな人間を描きたい

――この小説では、芥川賞を受賞し取材をたくさん受けた朝陽がつい話を作ってしまい、それが担当編集者にとっては、これまで朝陽が周囲に抱いてきたような違和感になってしまうという暗転が見事です。

【高瀬】ふだんの私もそうですが、誰しも話を盛ることはあるし、大なり小なりの嘘はつくもの。しかし、「小説家が取材で嘘をついちゃうとバレてしまって、こうなるんだな」と思いながら、その怖さを描いたつもりです。担当編集者は「そんな嘘をつかなくても」と止めてくれたわけですが、朝陽はゼロから話を作ってしまったし、やっぱり朝陽を担当するのはたいへんですよね(笑)。この小説に限らず他の本もそうですが、主人公がすべて正しくて正義というわけではなく、ときには他人に嫌われもするし、「それは違うだろう」と思われるようなこともしてしまう。そんな部分を残して書くようにしています。

構成=小田慶子

高瀬 隼子(たかせ・じゅんこ)
作家

1988年、愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。2019年、『犬のかたちをしているもの』(集英社)で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。第2作『水たまりで息をする』(集英社)で165回芥川賞候補に。2022年、『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)で第167回芥川賞を受賞。他の著書に『いい子のあくび』(集英社)など。