「うわぁ」と思われるような嫌な人を描くのは楽しい

――その作中作では、女子大学生の無謀で無神経な行動が描かれます。思いつきで中華料理店の息子にご飯をおごらせた挙げ句、彼と寝てみたり……。個人的に、私も大学生時代に同級生が似たようなことをやらかした記憶があり、リアルで痛い! と思いました。

【高瀬】主人公の朝陽はごくごく一般的な性格。そんな真面目そうな人が「うわぁ」と思われるような小説を書いているという構図にしたかったので、大学生の悪い面が出る話を書いてみました。作中の「わたし」ほどひどいことはしていなくても、大学時代にちょっとした軽薄さを持っていた人は多いかなと、そんな反省も込め……。でも、同時に、嫌な話を書くのは楽しいんですよ。「ここでこんな態度を取ったら、すごく嫌なやつになる」などと面白がりながらスラスラ書けます(笑)。

――表題作のほかに、朝陽が芥川賞を受賞して取材攻勢を受ける様子を描く『明日、ここは静か』も収録されています。朝陽に嫌なことを言う記者が出てきたりしますが、これは実際にあったことですか。

【高瀬】いえ、これも想像です。実際に私が芥川賞を受賞したときのインタビューでは、聞き手の皆さんは小説を読むという労力をかけてまで取材してくれるわけですから、丁寧に接していただいて、こんな嫌な目にはあいませんでした。職場でも、朝陽が「小説家なんだから広報に協力して」と言われたようなことも、いっさいなく……。ただ、「何かひとつ違ったら、こういうことは起こりうるだろう」と思って書いている感じですね。

作家・高瀬隼子さん
写真提供=文藝春秋

結婚を強要するなど、ときどき耳に入る「うるさい」声

――朝陽は同僚や上司、友人から、いろんなことを言われて「ざわざわ」した気持ちになるわけですが、高瀬さんがふだんそういった違和感を抱くのはどんなことですか?

【高瀬】私の日常はわりと平和というか、もしかしたら小説家だということが知られたからかもしれませんが、直接ハラスメントみたいな言葉をぶつけられることはなくなりました。ただ、先日、喫茶店にいたとき、隣のテーブルで若い女性が年上の女性から「早く結婚しなさいよ」と言われているのを耳にして、勝手に言われた女性の気持ちになり、隣の席でキレてました(笑)。その女性がなぜそんなことを言われていたのかはわからないんですが……。

――「早く結婚しなさい」というのは、やはり今でも女性が言われがちなフレーズですよね。

【高瀬】まだ全然消えていないですよね。高瀬個人としては、あまり「結婚」という縛りに興味がなく、例えば友達が結婚してもしなくてもどっちでもいいし、したかったらすればいいと思っています。結婚するかしないかは本人が好きにすればいい話であって、そんなに重要なトピックではないですね。ただ、喫茶店で目撃したような結婚の強要は不愉快だと思っているので、そういう声には「うるさい」と言いたくなりますね。