旅行会社として知られるJTBは2000年代以降、事業の中心を「旅行コンテンツの提供」から「交流創造事業」へとシフトし、ツーリズムに加え、地域の交流促進課題を解決するエリアソリューション、企業のコミュニケーション課題の解決をめざすビジネスソリューションを幅広く展開している。コロナ禍が明けて旅行やリアルのイベントが本格復活してきた今、注力するビジネスソリューションがプロモーション事業だ。「旅」「交流」をキーワードとするJTBのプロモーション事業にはどのような特色があり、企業にどのような効果があるのか。JTBビジネスソリューション事業本部でプロモーション事業を担当する坂本勝氏、東原彩氏の両名にお話をうかがった。

非日常の特色を活かす「旅メディア®」

――JTBのプロモーション事業は、どういった経緯から始まったのですか?

【東原】もともと社員旅行や報奨旅行を扱っていた営業担当者に、企業様が「JTBは、旅行という領域でタッチポイントをたくさん持っていますよね?」とおっしゃったことが、気づきを得るきっかけでした。「確かに旅行は、朝起きて、外で活動して、ご飯を食べて、寝るという日常生活と変わりがないのに、非日常という場で行われる。団体であれば、同一空間で、しかも長い時間を共にする。旅行中に商品やサービスを実体験できる機会があれば喜ばれるかもしれない」というアイデアにつながったのです。

そこで、得意領域である「旅」をベースに、「つなぐ」「つなげる」という交流機能や、国内外の拠点や全国の自治体、教育機関とのネットワークを活かして、企業様と旅行参加者とのタッチポイントを創り出すプロモーション事業を手掛けることになりました。

東原 彩(ひがしはら・あや)
JTB ビジネスソリューション事業本部
マーケティングチーム
マーケティング担当マネージャー
2003年入社。法人営業に16年間携わったのち2020年10月より現職。企業の課題解決や価値向上のためのソリューションの開発・情報発信などを担当。

――JTBのプロモーションは、一般的な雑誌広告やテレビCMと、どういった点が違っているのでしょうか?

【東原】JTBでは「旅先の地域やシーンそのものがメディアである」と考え、「旅メディア®」の名で、旅時間を活用した体験型マーケティングを展開しています。テレビCMや雑誌広告では、商品の情報は伝えられても、体験していただくことはできません。しかし、「旅メディア®」では旅行中のお客様に商品やサービスを体験していただく機会を自然な形で設けることができ、その商品を活用したお客様の生の声を拾い上げることも可能です。また国内にとどまらず世界へ認知を広げていきたいとご要望も多くなってきています。

【坂本】旅行という非日常の中での五感を伴う体験や体感は、旅行中のワクワクする感情とともに、強く記憶に残りやすいという特性があります。「日常の商品に非日常のスポットライトを当てる」ことで、より深く印象付けることが可能となるのです。

また出発前から帰着後までのお客様の心がどのように動くのかに着目しています。例えば、申し込んでから出発までの旅行に思いを馳せる「旅マエ」のワクワクドキドキ感、貸し切りバスや飛行機での移動中、ホテルや旅館での滞在中、温泉に入る時間など「旅ナカ」の楽しさや興奮、何年経っても残る「旅アト」の懐かしさを思い返す。その過程の中で、商品やサービスが一番輝いて感じられるタイミングで、お客様とのタッチポイント(接点)を提供しています。

坂本 勝(さかもと・まさる)
JTB ビジネスソリューション事業本部
事業推進チーム 事業推進担当マネージャー
2000年入社。一貫して法人営業の現場で多くの業種業態の企業の課題解決営業に従事。2022年よりビジネスソリューション事業本部にて法人営業におけるプロモーション事業の推進を担当。

旅行者はインフルエンサー

――「JTBで旅行を申し込んだら、旅先で使えるお化粧品の試供品をもらえた」と聞きました。

【東原】はい、各企業様からの新商品プロモーションの依頼を受けて、お客様が旅行をお申し込みされた時点でコスメの試供品をお渡しすることもあれば、リゾートホテルのフロントで日焼け止めを配布したり、レンタカーを借りる営業所で眠気防止ドリンクやガムを配布したりすることもあります。湯上がりに冷たい飲み物をお渡しすることも多いですね。

【坂本】旅行事業を通じて培ってきたホテル・バス・飲食店など多くの事業パートナーの存在があり、またタッチポイントも設計しやすく、プロモーションも点ではなく線で、体系的かつ戦略的に実行支援できるのが強みです。

また、商品を体験されたお客様が宣伝してくださるケースもあります。旅行好きな人たちはアクティブで、普段からいろいろな情報を発信している人が多いんです。そういう方が旅先で初めての商品を試されると、高い確率でそれを発信することになるわけです。私たちは「旅行者はインフルエンサー」と考えています。

――企業にとっては、新商品のテストマーケティングと同時に、SNSなどを通じたクチコミの宣伝効果が期待できるわけですね。

【東原】ええ。プロモーションで扱う商品は他にも、ホテルの部屋に置く加湿器やベッドのマットレス、朝食会場に置く乳製品など、さまざまです。そうしたサービスを行うことで、ホテルや旅館の印象アップも期待できます。

【坂本】企業様にとってもうひとつの利点は、商品を体験されるお客様の属性が明確であることです。旅行の場合、お客様が何人おられ、どこに行くのか、年齢や男女の別など、申し込みの時点で定量的なデータがわかっています。また朝食会場などの現場でアンケートを実施し、定性的な調査をすることもできます。旅先の観光地でスマートフォンを使った携帯アプリのプレゼントキャンペーンと組み合わせて、体験の感想をその場で聞くといったことも可能です。さらにグループのシンクタンクであるJTB総研などとの連携により、主なターゲットとする対象国の訪日旅行者の商習慣を把握した上で、プロモーション実施前の戦略策定から企業様に伴走できることも、大きな強みと考えています。

ツーリズムから交流創造事業へ

――テストマーケティングだけでなく、地域ぐるみの大きなイベントを仕掛けることもあるとか。

【東原】企業様の課題解決と同時に、観光地のブランディングのお手伝いなど、地域や行政の課題解決に取り組むこともあります。印象に残っているのは、あるオープンカーの発売イベントですね。新型車発売のタイミングでファンとのより強い絆をつくる機会がほしいというリクエストを受け、星空のきれいな村にユーザー100組をご招待し、カウントダウンをして一斉にライトを消し、「オープンカーの座席から星を見る」というイベントをサポートしました。

カウントダウンの前には地元の方々の出店する屋台で買い物をする時間や、地元の食材を食する機会を設けました。また、伝統芸能のショーを行ったり、複数の宿泊施設と相談してパッケージをつくったりなど、企業様とファンとの絆を醸成しただけでなく、地域と人と企業の間にもコラボレーションが生まれ、参加者全員の心に刻まれた時間となったと感じています。

【坂本】ある大手飲料メーカー様では、お茶の人気商品の発売30周年を記念して「日本の文化を未来へつなげよう」というプロジェクトを実施しました。日本各地の史跡や名所で、それぞれの地域の銘菓と、いれたての緑茶のセットを来場者にふるまい、オリジナルペットボトルに入ったお茶を配布するというものです。こちらも地域とのコラボ企画で、旅行者のみなさんも喜び、観光地のイメージアップにも役立つプロモーションになったと思います。

【東原】JTBは「人と人、人と場所、人とコトを『つなぐ』『つなげる』ことで新たな価値を創出していく」という考えの下、「交流創造事業」を事業ドメインとしています。その中にあって、私たちのレガシーでもある旅行は、人の移動と交流を伴い、買い物や食事、宿泊など、リアルマーケティングの機会が多いイベントです。そこが企業様の商品プロモーションにおける課題解決につながっていきます。

――プロモーション事業は今後、どのように発展していくと思われますか?

【坂本】ビジネス環境の変化に合わせて、体験型マーケティングであるプロモーションも進化を続けていくと考えています。現在、「インバウンドの外国人旅行者にリーチしたい」という声が非常に強いので、この領域での調査分析・戦略策定・実行支援の各分野で、企業様の第一の選択肢となっていきたいと考えています。今後は旅先で働きながら休暇も楽しむワーケーションも浸透し、訪れる地域も分散が予想されますが、そうなった場合もJTBでは全国各支店と連携し、旅行者の発着に連動した、裾野の広いプロモーションを展開することが可能です。

【東原】地域との連携では、データを利用した観光誘客の試みとして、オープンデータ・移動データに加え、私たちの持つ旅行データを、各地域で実施する商品・サービスプロモーションに活用していただきたいと考えています。「この時期には地域のイベントなどと併せこういう国籍の人が○○人ぐらい来るだろう」といったことが事前予測できれば、企業側にとってもリーチしたいターゲットや広告効果が明確になり、地域のイベントにも協賛しやすくなるでしょう。新しい挑戦も、私たちだけでやるのではなく、いろいろな地域や企業と「つながる」ことで実現していきたいと考えています。

――JTBのプロモーション事業はこれから、さらに価値ある存在になっていきそうですね。

事例1 大塚製薬株式会社

【旅マエ】「ボディメンテナンス習慣セット」配布キャンペーンを実施

旅行出発前の体調管理を習慣化し、旅行の楽しさを満喫するためのキャンペーン。大塚製薬が長年の研究でその働きを確認した、健康リスクに備え体調管理をサポートする「乳酸菌B240」と、体の水分量を維持する電解質を組み合わせたコンディショニング飲料「ボディメンテ ドリンク」1本と、旅に向けた健康管理に役立つ情報がつまったパンフレットをセットにした「旅前 ボディメンテナンス習慣セット」を合計10万セット、全国のJTB296店舗にて、店頭カウンターにお越しのお客様に配布した。


事例2 某金融機関

【旅ナカ】訪日外国人旅行者の日本滞在中におけるATM利用率の向上

ワールドカップ観戦ツアーや中国の国慶節・春節で訪日した外国人旅行者を対象に、外国人客が滞在する宿泊施設に連絡を入れた上で、「ATM利用促進のしおり(多言語版)」のリーフレットを発送。海外発行のカードでも現金を引き出せる等の、ATMの利便性を訴求。「お金をおろせる場所がわかり、大変助かった」と訪日外国人の方から好評で、宿泊施設の受付スタッフからは「ATMの案内をする手間が省けた」と感謝をされた。

外国人旅行者および宿泊施設のスタッフの双方が持つ課題を解決する施策としてリーフレットを活用することで喜ばれ、かつ実施期間中の近隣のATM利用率向上につなげることができた。