中古車販売会社「ビッグモーター」で、保険金の不正請求や街路樹への除草剤散布などが何年も前から行われていたことが明るみに出た。ブラック企業は、なぜブラック企業になってしまうのか。精神科医で産業医の井上智介さんは「同調圧力は必ずしも悪いものではないが、ネガティブな方向に働くとブラック企業を生み、『内部告発は絶対に許さない』という空気が蔓延して隠蔽体質に発展してしまう」という――。
ビッグモーター平塚四之宮店前で土壌を採取する神奈川県警の捜査員=2023年8月30日、同県平塚市
写真=時事通信フォト
ビッグモーター平塚四之宮店前で土壌を採取する神奈川県警の捜査員=2023年8月30日、同県平塚市

どこにでもある「同調圧力」

ブラック企業といわれる会社に共通するのは、長時間労働やパワハラ、その他の違法行為や“グレー”な行為について、従業員が「おかしい」と思っても上に物申せない、言い出しにくい雰囲気があるという点です。“同調圧力”が強く働き、ネガティブな会社風土を強化してしまっているといえます。

大多数の考えや行動に合わせるように誘導する雰囲気や“空気”が同調圧力です。

同調圧力というのは、学校や地域、社会全体など、どこにでも存在しますし、必ずしも悪いものではありません。ゴミをポイ捨てしない、電車やバスを並んで待ち、順番を守るなど、「マナー」と呼ばれるものの多くは、もちろん、「そうした方が気持ち良くいられるから」という理由で守っている人もいますが、「周りの人がそうしているから」といった同調圧力が働いて守られているところもあるでしょう。つまり、同調圧力があることで、集団の秩序を保ちやすいという面もあるのです。

行動を仕向ける圧力、口出ししにくくする圧力

会社は、大人数で一つのコミュニティーをつくっているので、同調圧力が生まれやすい場所でもあります。そしてそれは、2つの方向に働きやすくなります。

一つ目は、従業員に特定の考えを持ったり行動することを仕向ける圧力。二つ目は、周りに対してそれを止めたりしにくい、「口出しをしてはいけない」という雰囲気をつくる圧力です。

例えばひと昔前は、新人歓迎会の宴会で、新人全員に一発芸をさせたりすることがありました。

Aさん、Bさんがやって、次に自分に順番が回ってきたら、やりたくなくてもやらざるを得ない雰囲気ができています。それが一つ目の圧力です。

だからといって新人ではない3、4年目くらいの社員が、「自分も昔、新人だった時は嫌だったし、今の新人も嫌がっているようだから」と思っても、「もう、こういうのはやめましょうよ」とは言いにくい雰囲気になっています。これが二つ目の圧力です。「余計な口を出すな」という同調圧力が、周りの人にもかかっています。

こうした2方向の同調圧力は、どんな会社にも多かれ少なかれ存在します。ですから、どんな会社でも、ブラック企業になる可能性を持っていると考えたほうがいい。誰もがそのことを認識し、自分の会社に存在する同調圧力について意識すべきでしょう。