職業訓練の受講者数は減り続けている

半面、「非正規でも給付金(月10万円)を受け取りながら、職業訓練が受けられる」として期待された「求職者支援制度」は、近年、職業訓練の受講者数が年々減り続け、’19年度にピーク時(’12年度)の5分の1まで減ってしまいました(厚労省調べ)。所持金や訓練出席日数などの諸条件が厳しすぎることなどが原因ではないか、と言われています。

一方、たとえばデンマークでは、EUが打ち出したコロナ後の復興ビジョン(グリーンリカバリー)を鑑み、「気候変動対策」の職業訓練を選ぶと、訓練期間中の給付がアップするといった制度が作られました。またアメリカでは、州ごとに医療やITなどの成長が見込める産業を選定し、コロナで失業した人に、そこで働くために最先端の技能を学べる訓練を提供する取り組みが始まっているといいます(’21年「クローズアップ現代」NHK総合、1月27日放映)。

日本も厳しい条件のもと、ただ一律に職業訓練を促すのではなく、今後の成長産業を見据えたうえで、よりフレキシブルな制度設計をし直す必要があるのではないでしょうか。

★提言3:職業訓練では、諸条件の緩和や成長産業を見据えた新たな制度設計を

「キャリアアップの時間が取れない」

こうした職業訓練やリスキリングに取り組む際は、「時間」も大きなネックです。

私が教鞭を執る立教大学大学院では例年、「『通学時間が取れるなら仕事しろ』と上司に怒られるから言えない」と、会社に内緒で通い続ける学生が何人もいます。日本の場合、MBAホルダーが企業で評価されるケースは稀で、時間の確保も楽ではない状況です。

「非正規→正規」の職業支援も同じでしょう。いまや派遣社員やパート・アルバイトなど、正社員以外でも、フルタイム(1日8時間・週40時間以上)で働く人が約3割いて(’19年 厚生労働省調べ)、彼らは「正規を目指して学び直そうにも、時間が取れない」と頭を抱えます。仕事上で弱い、あるいは不安定な立場にある人ほど、時間を融通しにくいのが現実です。

プレゼンテーション
写真=iStock.com/Yue_
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今回取材した、Z世代のホテルマン(25)も、「1年間だけ休日(日、月)を変えてもらえれば、中国語学校に通えて、正社員になれるかもしれないのに」とため息をつきます。恋人はいるものの「非正規だと、彼女の親に(結婚を)反対される」というのです。

一般的に、Z世代の多くはスキルアップや「自分アップデート」に余念がないのが特徴だとされます。「近い将来、ジョブ型雇用が一般的になるだろう」や「○○のスキルを身につけないと、転職時に拾ってもらえない」など、新卒段階から危機感が強いのです。ゆえに、学び直しに理解のない職場は今後、彼らから「旧態依然とした職場で、魅力がない」と見られてしまうでしょう。逆に言えば、時間の融通も含め、学び直しに協力的な企業は、Z世代に選ばれる可能性も高いのですが……最近は、こんな声も聞こえてきます。

「結婚した上司を見ると、あまりにテンパってて、結婚はメリットないと思っちゃう」

そう、結婚・出産して働く先輩たちは、未婚の若者に「時間がなく、テンパっている」ように見られているのです。ゆえに、彼らは「自分にはムリ」や「結婚や出産は、仕事上メリットがない」と感じてしまいます。昭和のように、結婚すると「一人前」と見られ、仕事の信頼度が増す時代ではないので、なおさらでしょう。