本業と並走するには、体力と強靱なメンタルが必須

副業を認める企業も増えてきてはいるが、企業の副業規定はおおむね「本業業務と競合しないもの」「本業に支障をきたさない範囲での働き方」が定められている。だからこそ、夜間や土日の休日を利用しながら、例えば、ヨガや塾講師、メディア制作発信、趣味をカタチにしたものなどを副業とする人が多い。本業と競合せず、本業務を十分にやり遂げることが第一条件だからだ。

脇さんの場合、「急須で入れて飲む日本茶の文化を今の時代に合った形でアップデートしたい」という思いから事業を考えて興し、自身が携わってきた茶葉調達での経験が副業にも生かされている。こうしたことからも一見、本業と競合しているようで、「本業で得た知見を、自らの会社で昇華させるのは、本業の知的財産やテクノロジーの流出ではないか、会社への裏切りではないか言われることもありましたが、まったく違います。ティーバッグでおいしく出せるお茶の研究・開発、販売は、本業の枠外でその知見のある人たちと組むことで実現したこと、本業の競合にはないのです」と脇さん。

脇奈津子さんと木下編集長
撮影=PRESIDENT WOMAN Leader’s Salon

起業1年目の2020年。コロナ禍でテレワークという働き方が一気に浸透したのをきっかけに、朝晩やランチタイムの1時間を利用して、副業事業の拡大を模索したという。それまで会員制サービスだったものを新たな事業モデルへと修正。2021年4月にクラウドファンディングでテストマーケティングを実施し、同年7月にサービスをローンチして法人化。「当初は、個人事業主として起業しましたが、販売先が増えたのを機に法人化しました」(脇さん)

副業起業から4年、事業を見事に成功させている脇さんだが、ダブルキャリアを成功させるには、時間の生み出し方と体力、強靱きょうじんなメンタル力が必要だとも熱く語った。

「私自身は、時間のことを忘れて仕事にのめり込んでしまうところがありますが、早朝や夜間、土日の休日などを副業の仕事に充てています。今は海外とのミーティングも多いので昼夜逆転になることも。でも、本業に絶対に影響しないようにしています。また、副業をするなら社内の人間関係を良好にしておくことも大切なこと。やはり、社内にはダブルキャリアをよく思わない人は一定数いるはずですから。先手必勝、周囲を敵に回さないようなマインドセットは絶対に必要ですね。私は喧嘩っ早くて若い頃は周囲との軋轢が多かったんですが、今は大分丸くなっています(笑)」

本業に最大限還元し、羽ばたきを模索

自分のやりたい事業をやるには、退職して自身の会社を興すか、転職なども考えられるが、脇さんの場合、法人化してやりたい方向性が決まった後は、(一坪茶園の事業への)投資家たちのアドバイスもあり、退職・転職は一切考えなかったという。

「一時期退職の意向も伝えたこともありました。けれど、私自身は、今の会社以外では役に立てないのではと不安を抱え続け、正直、転職して何かできるとも思えず悩んでいました。そのとき上司に『大企業でしかできないこと、大企業だからこそリスクを取らずにできることもある』と言われたんです。それで新規事業やCVCの起ち上げに関わらせてもらったことで、自分自身の事業立ち上げへの自信がつきました。今は、経営の体力をつけるために副業というカタチを選んでいます」

ある意味うらやましい環境で副業起業への道を歩んで来たともいえそうだが、4年を経た今は「副業の動きが活発になるにつれ、後ろの扉(大企業の社員であること)はきちんと閉めないといけないと考えています。最大限、今の会社に還元しながら羽ばたく時期も模索しています」(脇さん)。