営業活動によって集まる名刺は「宝の山」といわれるほど大切な情報源だが、意外に進んでいないのが企業における名刺データの共有・活用だ。また、名刺管理サービスを利用している場合も法的なものを含め実は問題が多い。Sky株式会社の金井孝三氏に、現状の問題点と解決法を聞いた。

今後も廃れない日本独特の「名刺交換文化」

日本では、名刺を持っていないビジネスパーソンはほとんどいないでしょう。対面でお会いしたらまず名刺交換をして、それから商談を始めるという流れも、多くの人がごく当たり前のこととして捉えているのではと思います。

しかし、ヨーロッパでは名刺を持つのは海外との取引を担当する部長級以上の人だけであることが多く、アメリカでは商談後、会社や個人の連絡先を伝えたい場合に名刺交換するのが一般的です。

一方、日本では「名刺交換からビジネスが始まる」という考え方が、意識するまでもないほど深く根付いています。単なるマナーやしきたりを超えて、すでに文化になっているといっていいでしょう。外資系企業の人が商談などで本国から来日する場合、日本法人のスタッフがわざわざ名刺を用意して、交換のタイミングなどをレクチャーすることもあるほどです。

こうした日本独特の「名刺交換文化」は今後も続くでしょうから、紙の名刺の需要もなくなることはないと思います。そう考えると、日本の企業はビジネス相手から必ずもらえるこのアイテムを、もっと有効活用していくべきではないでしょうか。

Sky株式会社
ICTソリューション事業部
執行役員
金井孝三

「宝の山」名刺情報を活用できない理由

名刺情報は営業データの宝の山だといわれますが、その管理は交換した本人に任されていることがほとんどです。名刺ホルダーも大抵は個人の机の上に置かれていて、社内で共有できる状態にはなっていません。せっかくの宝の山が眠ったままになってしまっているのです。

労働人口が減る中、企業が今のビジネスを存続させるには効率化が必須です。その代表的な取り組みがDXでしょう。特に日本の営業パーソンは雑務が多くなりがちで、本来の業務である営業活動に割ける時間が少ないといわれています。今後の日本で事業成長をめざすなら、DXによる営業活動の最大化、すなわち「営業DX」が不可欠であり、名刺情報の管理や活用はそのひとつです。

近年はSFA(Sales Force Automation)を社内システムとして導入して、案件情報を共有する企業も増えてはいますが、ここには大きな問題があるように思います。なぜなら、もらってきた名刺を、案件化するかどうかは営業個人の判断に任されているからです。これでは、名刺を交換してきた人が「ビジネスにならない」と判断すれば、その取引先の情報は登録されないということになってしまいます。

これからの時代、顧客は個人ではなくチーム、組織で獲得していくべきです。名刺情報という宝の山も、個人で持っているだけでは真価を発揮できません。組織全体の目に触れて初めて宝になるのです。そのためには、個人がもらってきた名刺すべてを簡単に社内のシステムに登録できて、なおかつ組織がそのすべてを見渡せる仕組みを導入する必要があります。

こうした仕組みを提供するのが、法人向けの名刺管理サービスです。近年は多様なサービスが登場していますが、当社では、より営業支援機能を高めた「SKYPCE(スカイピース)」を開発しました。

開発は、従来の名刺管理サービスに対する疑問から始まりました。従来のサービスの多くは、インターネットを介して事業者のサーバー上にあるソフトウェアを利用する「SaaSモデル」です。このモデルでは、お客様から提供された紙の名刺をスキャンしてテキスト化しますが、契約の終了時にはテキストデータは返却しても、名刺の画像データは返却しないのが通例になっています。

使いやすい名刺管理画面で顧客情報の共有をスムーズに。

一方で原本である名刺はどうなっているかというと、一度データ化した名刺本体はシュレッダー処分されることがほとんどです。これではテキスト化されない部分、たとえば会社のロゴや保有資格などの情報は一切残らなくなってしまいます。

もちろん約款には画像データを返却できない旨が記載されていますが、このSaaSモデルは情報システム部門に相談することなく、営業部門だけで契約や導入が行えることから、多くの企業で、情報システム部門が行っているサービスやシステム導入前の約款チェックを法務部門に依頼するというルールが遵守されていません。主な利用者である営業パーソンは、おそらく約款まで読み込む人は稀でしょうから、名刺の高解像度の名刺画像データが返却されないとは知らないまま使っている可能性が高いのではと思います。

名刺もそこにある情報もすべてお客様のものなのに、大事な情報が含まれる画像データをお客様にお返ししないのはおかしいのではないか――。そんな疑問から、当社では、ご希望があればいつでもすべてお返しできるサービスを提供したいと考えたのです。

さらに、「名刺データはすべてお客様のもの」という考え方に基づいて、お客様ご自身のサーバーで名刺データを管理できる「オンプレミス版」と、SaaSモデルと同じくクラウド上で管理できる「クラウド版」の2つから利用環境をお選びいただけるようにしました。この点もSKYPCEの大きな特長です。

また、現在では無料で使える個人向け名刺管理サービスもたくさんあります。日本では約300万人以上が利用しているとされ、これらのサービスを使っている営業パーソンも多いと思われます。

しかし、社員が個人向けサービスで顧客情報を管理するのは、会社にとっては大きなリスクになります。会社のPCではなく個人所有のPCからアクセスする可能性もありますし、転職時に名刺データを持っていかれてしまう恐れもあります。

名刺データは個人のものか、会社のものか?

業務で培った人脈は営業パーソン個人のものという考え方もできますが、たとえば公私ともにお付き合いしているような顧客だったら、わざわざ名刺データを持っていかなくても連絡に困ることはないでしょう。名刺は個人の人脈を表すものではなく、あくまでも顧客情報であり会社の資産なのです。

顧客情報を巡っては、裁判に発展するケースもあります。社員が顧客名簿を持ち出して独立したり、競合他社に転職して営業活動に使ったりした事例が多く、それらは主に「顧客情報が営業秘密となる要件を満たしているかどうか」が争われます。

この際の要件とは、秘密管理性(企業内で秘密として管理されている)、有用性(事業活動に有用な情報である)、非公知性(公に知られていない情報である)の3つです。ところが、個人向け名刺管理サービスで管理されている名刺情報の場合、この3要件を満たさないことから、「営業秘密に当たらない」とされることが考えられます。

その点、SKYPCEのような法人向けサービスを利用し、営業活動で知り得たビジネスに有益な情報をシステム上に登録していれば、「営業秘密」と判断される条件を満たすことになります。

もちろん、法人向けサービスならではの課題もあります。たとえば、営業の進捗しんちょく管理のために社員が自分の業務用PCに名刺データをダウンロードしたら、その後の取り扱いは本人の自由になってしまいます。

当社では、名刺データをPCにダウンロードして作業したいという企業様に向けては、当社開発商品であるシンクライアントシステム「SKYDIV Desktop Client」をお薦めしています。データをすべてサーバー上に置き、操作するPCには画面だけを転送するというやり方で、名刺データを業務用PCに一切保存せず利用できる仕組みが構築できます。また、そこまでは必要ないというお客様にも、IT運用管理ソフトウェア「SKYSEA Client View」と組み合わせ、「名刺のローカル保存禁止」や「操作ログの記録」を設定することで、名刺データなど企業が蓄積した営業秘密について安全・安心に取り扱えるような仕組みづくりを支援いたします。

名刺は古くは江戸時代から使われていたといいます。武士は自分の名を書いた紙を持ち、訪問相手が不在の際に「訪問しました」という記録を残すために置いて帰るなどしていたそうです。

今も新年の挨拶回りなどでは、相手が不在だったら名刺を受付に渡して帰る方もいるかと思います。日本の名刺文化はそれほど古くから続いているものであり、今後も廃れることはないでしょう。

それにもかかわらず、名刺に載っている情報の有用性は長く見過ごされてきました。企業の方々には、今後の事業成長のためにも今こそ名刺のDXに取り組んでいただけたらと思います。

名刺DXの重要性や、なぜ今その取り組みが必要なのか、SKYPCEによって営業業務はどう変わるのかといったことについては、PRESIDENT創刊60周記念フォーラム「未来創造フェスティバル」の講演でさらに詳しくお話しさせていただく予定です。

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