仕事も遊びも全力投球の20代、まだまだアクティブな30代、気持ちは若いけれど体力の急激な低下に愕然とする40代……とは言い過ぎかもしれないが、40歳も越えてくると、最近疲れやすい、なかなか疲れが取れない、などと感じることはままあるだろう。「年のせいか疲れが取れない」というフレーズはもはやこの世代の定型句だ。その真偽を確かめ、疲れをためないための習慣を伺いに、二人の専門家の元を訪ねた。

※本記事はキリンホールディングスから梶本先生に取材を依頼し、頂いたコメントを編集して掲載しています。

毒素をためなければ疲れもたまりにくい

「年齢を重ねるほど疲れやすくなるというのは、医学的根拠がある真実です」

年齢と疲れの因果関係を伺いに、まずは東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身先生の元を訪ねた。梶本先生は、かつて産学官連携による疲労に関するプロジェクトで統括責任者を務め、さらに疲れに関する著作やメディア出演も多い、疲労研究の第一人者である。

梶本修身。東京疲労・睡眠クリニック院長。医師、医学博士。大阪大学大学院医学研究科修了。2003年から2009年まで、産官学連携疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクトの統括責任者を務める。シリーズ累計18万部を超える『すべての疲労は脳が原因』(集英社)など多くの著書を上梓するほか、ニンテンドーDS「アタマスキャン」では脳年齢ブームを起こす。メディア出演も多い

その梶本先生によると、加齢により疲れやすくなるのは事実であり、それに大きく起因しているのが自律神経だという。

「自律神経は脳に酸素と栄養を安定して供給する、いわば司令塔です。この機能が、20代に比べると40代ではおよそ半分に、50代では3分の1以下に落ちます。自律神経機能の目的は、脳へ酸素と栄養を安定供給すること。そのために自律神経は、心臓、肺、消化器など体中のすべての器官に対して司令を送り続けます。自律神経からの司令は1分でも止まると生命を維持できません。ところが、老化により自律神経の機能が低下すると、その司令が的確でなくなるんですね。すると、循環呼吸機能などの低下を招き、ばてやすく、疲れからの回復も悪くなるのです」

自律神経機能の半減を分かりやすく例えると、それまで1時間歩いて感じていた疲れを30分で感じるようになるということ。日常生活でも明らかな違いを実感するほど、自律神経と疲れは密接に関連している。そしてもう一つ、通常の生活を送っていても疲れやすくなる原因が「毒素」だという。

「日常生活で体に負荷がかかるとタンパク質が分解され、同時にアンモニアなどの物質が出ます。これが体にとって毒素になり、疲れにつながります。本来はアンモニアを代謝して尿素として排出するのですが、その機能が落ちてくると毒素が体の中にたまってしまうのです。実は、中高年にとっては毎日2時間程度の通勤だけでも十分な運動量なんですよ」

「最近の中高年は運動熱心ですが、年齢相応の量にとどめることが大切」と説く梶本先生。ご自身も特にジム通いなどをせず、最低限の運動のみで健康を維持しているという

この毒素は、日常生活を送る中でも自然とたまっていくもの。特に中高年にとっては、この毒素をためないことが疲れをためないことにつながるのだが、そのためにはいくつか方法があるそうだ。

「体内にアンモニアなどの毒素をためないための一助になると言われているのが、シジミに多く含まれているオルニチンという成分です。アンモニアを代謝して尿素として排出する代謝回路、これをオルニチン回路と言います。オルニチン回路がうまく回らないと、体の中にアンモニアがたまってしまい、ひどくなると肝機能や腎機能に障害が出ることもあります。オルニチンという成分は、このオルニチン回路を促進し、アンモニアを無毒化して排泄する働きがあるということが、はっきりと証明されています」

アンモニアを無毒化する動きを促すことに加えて、さらにオルニチンはエネルギーの産生に関する働きも見込めるそうだ。

「肝臓の代謝回路にTCAサイクルというものがあります。これはATPというエネルギーを作る回路のことで、このTCAサイクルがうまく機能しなければエネルギーが足りなくなり、逆によく動けばそれだけ多くのエネルギーが産生されます。オルニチンは、そのTCAサイクルの代謝を促進する働きがあると言われています。ですから、疲れをためないことと、エネルギーを作り出すことに対して、その一助となる働きが期待できるということですね」

肝臓で行われる代謝経路を簡略化した図。代謝経路はいくつかあるものの、アンモニアを分解して尿素として排出できるのはオルニチンサイクルのみ *オルニチン研究会(リンクは記事最下部参照)の資料をもとに編集部にて作成

回復へのサイクルを知り、疲れにくい体を手に入れる

肝臓の代謝を促すオルニチンとは、アミノ酸の一種である。このアミノ酸に関する研究を日本でいち早く開始し、オルニチンに注目しているのが、主に飲料メーカーなどを傘下に置くキリングループである。同グループのヘルスサイエンス研究所で研究員を務める森安一樹さんはこう話す。

「加齢とともに誰もが直面する健康課題を、体に安全で安心なアミノ酸で解決したいという思いから、日々研究開発を進めています。アンモニアを含む毒素は主に肝臓のオルニチンサイクル(回路)という代謝経路によって無毒化され、尿として排出されることが分かっています。この代謝経路において不可欠な役割を担っているのがオルニチン。私たちがオルニチンに注目した理由もここにあります」

体内に毒素が発生する原因は、筋肉疲労をはじめ、眼精疲労、暴飲暴食、飲酒、精神的ストレスなど多岐にわたる。肝臓が本来の役割を果たせないと、エネルギー不足や毒素の蓄積によって疲労につながってしまうが、オルニチンにはそれを抑制する働きが見込める。

さらに、このオルニチンによって期待できる変化もあるという。

「オルニチンサイクルを繰り返して整えることにより、疲労回復力を取り戻すことができ、疲れにくい体になることができると考えています。ただ、私たちの研究によると、オルニチンの理想的な摂取量は1日800mg(注1)。オルニチンの含有量が多いシジミでもおよそ1800個必要です(注2)。研究員でも食事だけでこれだけの量を摂取できている人間はまずいませんので、サプリメントなどを活用している研究員も多いです」

注1:小松食品と開発 40(11).62-4, 2005の結果を基に800mgの設計としている
注2:協和発酵バイオ社調べ

一時的なケガや病気であれば、完治すれば仕事のパフォーマンスも回復するだろう。だが、毎日の疲労感となるとパフォーマンスのアベレージを落とすことになる。「なんとなく疲れているな……」の日々が続けば、ひいては人生の幸福度を左右することにもなりかねない。その疲労感を緩和するものとして専門家も太鼓判を押す、オルニチンという新習慣。試してみる価値は、大いにありそうだ。

(構成・取材・文=デュウ 撮影=小林久井)