コロナ禍を機にテレワークを余儀なくされるなかで一気に進んだ「デジタルトランスフォーメーション(DX)」――。その勢いはコロナ後も衰えず、むしろ加速の一途をたどっている。しかし、「いざDXに取り組んでみたものの、現場では使ってもらえない代物になってしまった」といった声が少なくない。そうした失敗を防ぐ一番の手立てが、事前の企画フェーズからDXに取り組む目的を明確にし、それに基づいた計画を立ててシステム開発をコントロールしていく「プロジェクトマネジメント」の導入だ。大変革の効果を最大化するために、外部のサポートを仰ぐことは有効な手段となる。

多額の予算と莫大な時間をムダにしないDX

2023年度のIT予算を増加させると回答した企業の割合は全体の46.1%に達し、2年前の21年度においてIT予算を増加させると回答していた38.5%という割合を大幅に上回った。これは日本情報システム・ユーザー協会が「企業IT動向調査報告書 2023」のなかで明らかにした数字である。そして、そのIT予算の大きな振り向け先がDXなのだ。

経済産業省はDXの定義を、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としている。

しかし、そうしたDXと、基幹システムの再構築を柱とする従前のIT化との間には大きな違いがある。それは多岐にわたるステークホルダーとのかかわりだ。「DX導入後の定着や利活用を実現するためには、IT関連部署のみならず、経営・マネジメント層、企画、営業、製造、カスタマーサービスなど幅広い部署の人が数多くかかわる必要があります。でも往々にして、プロジェクトを進めていくと次第に、全員を巻きこみながら上手に進められなくなってしまうのです」と指摘するのは、TISのプロジェクトマネジメントビジネス部シニアマネージャーの織田村明雄氏だ。

1997年にTISへ入社した織田村明雄氏。公共電子化サービスや自社AIサービス企画・開発など数多くのシステム企画や構築を経て、DX企画推進に従事。

これまでTISはプロジェクトマネジメントの手法を用いて、年間500件以上のDX・ITのシステム開発をサポートしてきた。直近10年間のサポート実績は6000件以上にもなる。その現場の先頭に立つ織田村氏の指摘だけに聞き逃すわけにはいかない。

さらに、同部シニアマネージャーの歌田悠紀氏は「先々のビジネスで具体的に何を達成したいのかを、ステークホルダーの間で明確にしないままDXのプロジェクトを進めてしまい、途中でシステム開発が頓挫してしまうことも少なくありません」と言う。せっかく大きな金額の予算を投入し、大勢のステークホルダーが各人の貴重な時間を費やしても、それでは全てがムダになってしまう。そうしたことを防ぐ有効策が、プロジェクトマネジメントの導入なのだ。

適しているのは『ウォーターフォール』なのか『アジャイル』なのか

プロジェクトマネジメントは文字通り、プロジェクトを成功に導いていくための総合的な管理手法である。その具体的な内容や方法について、プロジェクトマネジメント協会が「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」と呼ばれるガイドブックで体系化を進めてきた。まず1996年に第1版が発行され、その後に順次内容が改訂されながら版を重ね、2021年に最新の第7版が発行されている。実は、第7版の時点で大きな変更があった。それは、アウトプットのデリバリー重視から価値のデリバリー重視へのシフトであり、DXが大きな影響を与えているのだという。

「DX以前にIT化のメインであった基幹システムの構築においては、事前のプロジェクト検証で明確になった目的の達成に向けて、綿密な計画を立て、着実に遂行していくことに重きが置かれていました。そこでは事前に考案した工程を、一つずつ確実に遂行する『ウォーターフォール』型のプロセスを採用すればよかったのです。それがDXの導入で新しい価値を創出していくとなると、どうしても不確実性がともない、計画も仮説に基づいたものにならざるを得ません。そこで第7版からは、状況の変化に合わせて変更を行う『アジャイル』型のプロセスも重要視されるようになりました」(歌田氏)

もちろん、仮説に基づいた計画といっても、目的実現のための最低限のポイントは押さえておく必要がある。それなのに、プロジェクトのキックオフ段階で想定したレベル以下の計画にとどまっていたり、「動いてから考えればいい」と、安易なスタートを切っていたりすることがある。また、これまでの基幹システムの構築などでウォーターフォールには長けていても、アジャイルについてのナレッジや経験が乏しい日本企業が多いのが現状なのだ。

2001年にTISへ入社。大規模基幹システム構築プロジェクトを複数経験。現在は、プロジェクトマネジメントおよびアジャイルの専門家として、DXプロジェクトを支援している。

DXを推進させる「プロジェクトマネジメントサービス」

そうしたなかで、「DXのプロジェクトを立ち上げたのだが、なかなか前に進まない」「DXに取り組みたいのだが、何から始めていいのかわからない」といった企業をサポートするために構築されたものが、TISの「プロジェクトマネジメントプラットフォーム」である。

ウォーターフォールやアジャイルのプロジェクトの企画、計画から推進・実行までを、経験豊富なメンバーが参画して指揮統括する「プロジェクトマネジメントコンサルティング」、必要なタイミングで必要なサービスの提供や、DXを推進する人材の育成を行う「プロジェクトマネジメントサービス」が用意され、クライアントに手厚いサポートを提供している。

そのサポートのなかで、まず重要なポイントになるのが実行支援のプロセスの見極め、つまりウォーターフォールかアジャイルかの選択である。「DXの個々の開発フェーズのなかには、基本的な業務のものもあれば、ユーザーインタフェイス(UI)重視のものもあります。前者の場合はウォーターフォールで進めた方が効率的ですし、後者であればアジャイルで柔軟に対応していくことが求められます」と織田村氏は言う。

なかには、経営トップ層が「DXプロジェクトはアジャイルで進めるのが常識」と思い込み、基本的な業務までアジャイルで進め、その都度ステークホルダーが集まって検討を行い、時間を浪費しているケースがある。TISのような第三者が参画すれば、客観的な立場から的確なアドバイスや修正が可能になる。

また、プロジェクトやシステム開発の進行を担う人材の育成も重要なのだが、そもそもそれに関する知見やノウハウを自社で持っている企業はほとんどない。そこでプロジェクトマネジメントプラットフォームでは、たとえば各企業で決定的に欠けているアジャイルについて、「アジャイル開発研修(入門編・実践編)」のメニューを用意している。

「まず、座学でアジャイルに関する基本的な知識を学んでいただきます。それから当社のスタッフが一緒にアジャイルでシステム開発を進めていくなかで、OJTやコーチングを施しつつ育成を図っていきます」と歌田氏は話す。つまり、プロジェクトの進行と人材の育成を同時並行で行うこともできるわけだ。

経験とナレッジを蓄えた専門家が網羅的にサポート

それと忘れてはならないのが、営業をはじめとする業務の現場やIT部門といった各々のステークホルダーの間における、プロジェクトスタートに当たっての「合意形成」である。ここが曖昧だったり、おざなりだったりすると、先に触れたようなシステム開発の途中での頓挫につながりかねず、たとえシステムが完成しても現場で使ってもらえないことが十分にあり得る。

「私たちがスタート当初から入る場合、現場を含めた全てのステークホルダーとのヒアリングから始まって、企画のフェーズを終えるまでに3カ月くらいの時間をかけます。さらにステークホルダーと綿密な打ち合わせを重ね、計画フェーズが終わって実行に移す開発フェーズの移行までに3カ月くらいかけながら、丁寧に合意形成を進めていきます。それだけ重要なプロセスなのです」と織田村氏は話す。

これは「戦略型PGM支援」の一環として行われるサポートなのだが、それだけクライアントのステークホルダーの間に深く入り込みながら、DXプロジェクトを進行できるのは、織田村氏や歌田氏のようにプロジェクトマネジメントに精通し、なおかつ長年の経験によって開発や運用保守まで様々なナレッジを蓄えたマネジメント人材が約70名もいるからなのだ。

「他のシステムインテグレータで、これだけの人材が揃い、専門の部署を立ち上げてサポートを提供しているところはありません。また、私もそうですがマネジメント人材には実際にシステム開発に携わってきた者が多く、プロジェクトに携わる人の悩みを理解し、寄り添いながら解決していけることも当社の大きな強みになっています」と歌田氏は言う。

DXを本格的に進める前段階として、デジタル技術で新たな価値やビジネスモデルを生み出す「デジタライゼーション」も重要だ。実は、同じ事業部内にはコンサルタント人材からなるデータ分析のチームがあり、データのアセット化や見える化のサポートを行っている。

DXのプロジェクトについてことほど左様に、川上から川下まで微に入り細に入りサポートを提供できるTISは、「DXの駆け込み寺」ともいえる存在なのだ。もしも「自分もステークホルダーの一員だ」と思っているのなら、ぜひその名前を覚えておきたい。