共感性の高い“聞き上手”な人を疲れさせないためには

気をつけるべきポイントはいくつかあります。

第一に、「死にたい」に対応することはある程度頑張ればできても、対応し続けることは相当難しいということです。1回対応するだけでも非常に神経を使い疲れることですが、それが何度も何度も繰り返され、状況が好転しているように感じられないとしたら、それはどこかで対応している方が爆発してしまっても無理はありません。

対応をする側のメンタルヘルスの維持のためにも、「死にたい」に対応する場合にはチームが欲しいと言うことができます。一人で対応し続けるのには限界があるのです。

通常、対人支援の専門家であっても、相談を受けるのは大変なことであるため、時間や場所を限定して相談者から話を聞きます。しかし、家族や友だちであれば、そうはいきません。こうした相談がいつ始まり、いつ終わるのか、どこでどれだけ話をするのかを限定することは、日常の人間関係の中では難しいものです。一人ではいつでも対応できるとは限らないのですから、一人で話を聞き続けるのは諦め、できれば複数人で対応した方が良いということになります。

話を聞く側も支えられる必要があります。そうでなければ、「死にたい」に対応し続けることはできません。チームでの対応が難しければ、たとえば、対応する人が、対応の難しさについて専門家に相談をしたりする場があると良いと思います。

チームでハイファイブ
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対応チームを組み、不確実性に耐えながら関わり続ける

現実には、「死にたい」の背景に横たわるさまざまな問題に対処しようとしても、それらは複雑に絡み合っていて、短期的に問題を解決することは非常に難しく、時間を稼ぎ、時が解決してくれるのを待つしかないという場合もしばしばあります。あまり積極的な格好いい作戦ではないなと感じるかもしれませんが、この作戦の有効性には根拠があります。

というのも、「死にたい」と考える人の大半は、結局のところ自殺という形で亡くなっていくわけではないからです。また、自殺企図は自殺死亡の数倍から20倍程度の頻度で発生していると言われますが、このことも、自殺を考える者が必ずしもいつでも自殺で亡くなっていくわけではなく、こうした衝動はそれなりの確率で過ぎ去っていくものだということを示しています。

末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)
末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)

死にたい気持ちの強さは短期的に見ると波があり、大きなうねりとなって押し寄せることもあるものの、それを何とか乗り切れば、小さな波となっていつしか消えていくことも多いということです。

そして、死にたいという衝動を乗り切るためのポイントは、他者との関係性です。自殺という観点から見ても、我々は文字通り、一人では生きていけないのです。自殺が起きるか否かを短期的に予測することはできませんし、「死にたい」と言っている人の自殺を100%予防する方法もありません。完全なことは何もなく、自殺予防においては、不確実なことしかありません。自殺を予防しようと思うのであれば、このような不確実性に耐えるためにチームで助け合いながら、人との関わりを続けていくしかありません。

電話やSNSによる相談窓口の情報
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末木 新(すえき・はじめ)
和光大学現代人間学部教授

1983年生まれ。東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース博士課程修了。博士(教育学)、公認心理師、臨床心理士。主な著書に『インターネットは自殺を防げるか――ウェブコミュニティの臨床心理学とその実践』(東京大学出版会、第31回電気通信普及財団賞受賞)、『自殺学入門――幸せな生と死とは何か』(金剛出版)、『公認心理師をめざす人のための臨床心理学入門』(大修館書店)など。