自分は教養を備えた、価値のある存在だと感じられるか

ここで疑問となるのは、シングルの人たちのポジティブで前向きな自己認識のために、結婚している人たちの場合と比べて、楽観主義がより重要な役割を果たしているかどうかだ。

私はその答えを、自分のおこなった別の統計分析のなかから、見つけることができた。それによると、楽観主義は、結婚していない人たちにとって、特に重要な役割を果たしていることがわかった。

この理由として考えられるのは、ポジティブで前向きでいるという内的な傾向は、子どもや配偶者という外的な「セーフティー・ネット」をもたないシングルの人たちにとってはプラスになっているということだ。このような内的な傾向が、人が逆境と闘うための自信と自立の意識を育ててくれる(※11)

ポジティブな自己認識のもうひとつの側面は、自分は価値ある存在であり、教養を備えていると感じられることであり、それは仕事や趣味、あるいは友人たちをつうじて得ることができる。

シングルの人たちは、よりフレンドリーで、物質的なことにはあまり執着せず、ほかの人たちより多くの意味を仕事から見出す傾向がある(このことについては本書で詳しく述べている)。

オフィスで様々な人が生き生きと働いている
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たとえば、シングルの人たちは、結婚している人たちと比べて、よりおもしろく、挑戦しがいがあり、達成感のある仕事を探すこと、また、仕事をつうじて結婚している人たちより多くを内在的に得ていることが、研究によってわかっている(※12)

私の分析もこの研究を支持している。自分は価値ある存在であり、教養を備えているという感覚をもっていれば、結婚したことのない人たち、離婚を経験した人たち、そして配偶者に先立たれた人たちの幸福感のレベルは、結婚している人たちと比べて高くなっている。

これは、自分は教養を備えた、価値のある存在だと感じるだけで、シングルの人たちは結婚している人たちとのギャップを埋めることができるという意味だ。その理由は簡単だ。シングルの人たちは、核家族の外に意味を見出し、それによって自尊心を高めることができているのだ。

ここで説明しているポジティブな自己認識を構成する要素は、自信、楽観主義、自分には価値があると思えることの3点であり、これらの要素がシングルの人たちの自己認識を高めうる道筋を示している。

確かに、ポジティブな自己認識を育てるのは、簡単なことではけっしてない。また、シングルの人たちの自己認識は、ほかの複数の要素によって決まる。

それらの要素とはつまり、収入(※13)、教育レベル(※14)、家族のサポート(※15)、それに宗教への信心(※16)だ(これらの要素はどんな人の場合でも、自己肯定感を左右している)。

ある研究によれば、教育レベルが高いほど、家族のサポートが多いほど、そして宗教心が弱いほど、シングルの人たちの自己受容は高い傾向がある(※17)

別の複数の研究によれば、文化的な要因、特に、個人主義が人々の自己肯定感を左右していることがわかっている(※18)

したがって、シングルのポジティブな自己認識は、これらの多様な要素と関連しつつ、彼らを内側からも、外側からも支えているといえるだろう。

シングルの人たちを支援する共同住居や、集団生活のプランも

戦略③ネガティブ思考をやめ、シングルにやさしい環境を選ぶ

第三の戦略は、シングルの人たちを取り巻いているプレッシャーと差別を避けることだ。

ロサンゼルス、ロンドン、東京などの大都市では、シングルにやさしい環境が数多く発展している。こうした地域では、年齢に関係なく、ひとりで生きることが「クール」で「かっこいい」と思われている。

52歳のジャスティンは、自分の住んでいるロサンゼルスを絶賛している。

ロサンゼルスのようなところでは、まわりにいる自分と年齢の近い人たちのほとんどがシングルなんだよ。大都市は、特にロサンゼルスは、「身をかためて子どもを作ろう」なんていうよりは、もっと遊び好きな都市なんだ。こういう都市に住むのは、本当に楽しいね。

ロサンゼルスのような大都市はプライバシーを大切にする。そこではシングルの人たちは消極的になることなく、ほかの人たちとつながり、多くの活動を楽しむチャンスを得ることができる。だからこそ、空前の数のシングルの人たちが大都市に集まってきたのも不思議なことではない。

しかし、現代のシングルのニーズに応えることができる場所は、大都市だけではない。地方のもっと宗教心の強い地域でも、シングルにやさしい環境が生まれつつあるし、アメリカの多様な教会で、シングルの生活は熱い話題になってもいる(※19)

2013年には、カトリックの伝統の文化のなかでもシングルの人数が増えたことを考慮して、シングルの人生を認め、祝福するようカトリック教会に対して働きかける異例の記事も発表された(※20)

この記事は、カトリックのコミュニティー全体で反響を呼び、非常に多くの賛同を得た。

このようなシングルにやさしい環境においては、シングルのコミュニティーの描写のされ方や社会的構成が、ポジティブな自己認識を促進する条件を生み出すものとなっている。

こうした環境は、シングルのライフスタイルを正常なものととらえているので、自己肯定感の低下につながる独身差別や結婚至上主義を弱める助けになっている(※21)

さらに、シングルの人たちを支援する共同住居や、集団生活のプランも誕生している(※22)

近年では、さまざまなソリューションが展開されており、そのなかには、一日計算でオフィス空間を貸し出すWeWorkの系列企業で、シングルをターゲットにした市場志向型のWeLiveがある。

WeLiveは今、ワシントンDCとニューヨークのマンハッタンで、以下のようなコンセプトで営業しているという。

WeLiveは、コミュニティー、柔軟性、そして、私たちはみな、自分を取り巻く人たちと同じ人間なのだという信念にもとづいて発展した新しい生き方だ。メールルーム(郵便物の仕分けのための部屋)から、バーやイベント・スペースの役割も果たす洗濯室、共同キッチン、ルーフデッキ、浴室にいたるまで、WeLiveは有意義な関係を育てる実際の空間を作ることで、伝統的なアパートメントの生活以外のあり方を模索していく(※23)

このようなコミュニティー・スペースは、衣食住の面で似たような考え方の人々を集めるだけでなく、帰属意識をもつことのできる柔軟な社会的ネットワークを提供することによって、人々を結びつけている。