フリーランスは会社員よりキャリア形成意欲が高い

ここでMeanと表示されているのは、平均得点である。前にも述べたとおり、「ワーク・エンゲイジメント」とは仕事への熱意を意味する。「専門性コミットメント」とは専門性へのこだわりの程度を意味する。「ジョブ・クラフティング」は、働く人が自分にとって意義のあるやり方で職務設計を再創造するという意味である。そして「職業的自己イメージの明確さ」「主体的キャリア形成意欲」「キャリアの自己責任自覚」は3つとも、いわゆるキャリア自律、つまりキャリアを自分自身で切り拓いていこうという意識を意味する。

これらの項目で、いずれもフリーランスは会社員よりも得点が高い。これが何を意味しているかというと、仕事への熱意、専門性、ジョブ・クラフティング、キャリア自律という点において、フリーランスのほうが会社員を上回っているということなのだ。

【図表】フリーランスと会社員の比較

フリーで働く幸福感は高くシニアの選択肢になりうる

これは通説とは異なる意外な結果のように見える。しかし、実はもともとフリーランスは、組織に属していないので、自律的で柔軟な働き方ができ、また専門性が高く創造的な仕事を行う存在と捉える見方もあった。となると、労働市場では弱者という見方と、自律的、専門的、創造的な存在という見方の両方があり、調査結果では後者が支持されたということになる。

石山恒貴『定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考』(光文社新書)
石山恒貴『定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考』(光文社新書)

この調査結果は、幸福感の研究とも一致する。幸福感を仕事満足度という観点で、西ドイツ、イギリス、スイスで測定した調査がある。その結果いずれの国でも、自営業のほうが雇用者よりも仕事満足度が高いことがわかった。その理由としては、自営業の場合は組織の雇用者のように上司の命令に従う必要がなく、自己決定の範囲が広いからだ、ということが考えられた。自営業の場合はもともと自分だけ権限があるので、究極の権限委譲と考えることもできるだろう。

この研究の自営業は、フリーランスと読み替えて問題はない。ここまでの話をまとめると、通説とは異なり、フリーランスという働き方には魅力的な部分があることがわかるだろう。もちろん、雇用=会社員とフリーランスにはそれぞれ一長一短がある。フリーランスという働き方が全面的に優れているわけでもない。しかし、働き方の選択肢は雇用だけ、会社員だけ、という考えに囚われず、フリーランスを選択肢にくわえることはシニアにとって意義深いといえよう。

石山 恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院教授

一橋大学社会学部卒業。産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了。博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。主な受賞として、経営行動科学学会優秀研究賞(JAASアワード)、人材育成学会論文賞、HRアワード(書籍部門)入賞など。著書に、『日本企業のタレントマネジメント』(中央経済社)、『時間と場所を選ばないパラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)、『越境学習入門』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)などがある。