長らくマンション購入時の2大検討事項になっていたのが「立地」と「価格」だった。いま、そこに「環境」が加わろうとしている。そして、業界内でいち早く「環境先進マンション」の展開に乗り出したのが東急不動産だ。同社の住宅事業ユニット長でもある亀島成幸取締役常務執行役員と東洋学園大学現代経営学部の八塩圭子教授が、その特徴や資産価値のポテンシャルなどについて語り合う。

企業はもちろん、個人でも環境問題の解決に乗り出す時代

――東急不動産ホールディングスは、2021年5月に長期ビジョン「GROUP VISION 2030」を発表し、そこで「WE ARE GREEN」のスローガンを掲げられました。そこに込められた思いについて教えてください。

【亀島】「WE ARE GREEN」は、多様な人財の力によって2030年にありたい姿を実現していこうとする、私たちの姿勢を表しています。そしてグリーンは、環境やサステナビリティ(持続可能性)の象徴であるとともに、私たちが目指している「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける未来」の象徴でもあります。若葉が芽吹き、それぞれの個性を活かして大きく育っていくように、グループが展開する多様な事業を融合させ、新たな価値創造につなげていきたいという思いが込められています。

新スローガン「WE ARE GREEN」のキービジュアル。

そうしたなか、第一優先で取り組んでいくものとして「環境」を掲げたのです。グループの長い歴史のなかで、街づくりとともに環境分野にも力を入れてきました。その環境を旗印にしながら長期ビジョンを実行していくことで、持ち前の強みをフルに発揮し、事業の差別化も図っていきます。そうした具体的な取り組みが「環境先進マンション」の展開なのです。

亀島成幸(かめしま・しげゆき)
東急不動産ホールディングス 執行役員 東急不動産 住宅事業ユニット担当
東急不動産 取締役 常務執行役員 住宅事業ユニット長
1990年、東急不動産入社。入社後、鑑定業務、住宅開発・計画・販売業務、マンションブランド「BRANZ」のリブランディングなど住宅関連の業務に従事。その後、総務、法務、人事担当執行役員に就任し、一般管理部門担当後、2021年より現職。

――その環境を含めたSDGs(持続可能な開発目標)に対する達成度を見ると、日本は他の先進諸国と比較して遅れているとの指摘があります。どういった課題があるとお考えですか。

【八塩】日本でSDGsという言葉が浸透するのは、新しいもの好きという国民性もあってか、非常に早かったですね。しかし、個々人がSDGsを実現しようと動き出すところまでには、なかなか結びついていないことが課題だと思います。

一方で、企業サイドはグローバルな視点を持っていたり、社会情勢や時代の変化に敏感だったりすることから、SDGsに対する認識を高めるだけでなく、すでにさまざまな具体的な行動を起こしています。今回の環境先進マンションの取り組みも、その一つでしょう。

個人ではなかなか重い腰を上げにくいですが、自らSDGsを実現していく手立てはあります。環境先進マンションのような、環境に配慮したモノやサービスを積極的に選択していくのです。これからそうした動きが、多方面での選択肢の拡大とともに、個人の間で強まっていくのではないかと見ています。

八塩圭子(やしお・けいこ)
東洋学園大学現代経営学部教授、フリーアナウンサー
上智大学法学部卒業。テレビ東京で経済部記者、アナウンサーを務めた後、フリーに。法政大学大学院経営学専攻修了。関西学院大学准教授、学習院大学特別客員教授を経て現職。報道、情報番組のコメンテーターとしても活躍中。

エネルギー消費も光熱費も抑えられるZEH(ゼッチ)とは

――2021年12月に住宅事業全体のスローガンとして「住まいを、未来のはじまりに。」を掲げ、既存の新築分譲マンション「BRANZ(ブランズ)」のブランドスローガンを「環境先進を、住まいから。」にリブランド宣言されました。宣言後初のフラッグシップ物件「ブランズ千代田富士見」には、それらの思いがどう織り込まれているのでしょうか。

【亀島】この物件は、東京都内でも屈指の邸宅地として名高い千代田区の「富士見」エリアの高台に位置しています。世界的な建築家の隈研吾氏率いる隈研吾建築都市設計事務所にデザイン監修をお願いし、皇居外苑や靖国神社近くという歴史的文脈と、ジンダイアケボノやオオシマザクラなど四季を演出する多彩な樹木を配植した自然環境とが、見事に共生する建築になりました。ハイレベルの基本性能を備えているのはもちろんのこと、さらに「環境を守りながら、快適に住める」ことを実現しています。

とりわけ特筆すべきなのが、千代田区内の中高層分譲マンションで初めて(※1)、環境負荷を低減する「ZEH(ゼッチ)-M Oriented」の認定を取得したことです。断熱性の向上でエネルギー消費を極力抑え、さらに高効率な設備やシステムを導入することによって住棟全体で、基準となる石油や天然ガスなどの1次エネルギー消費量から20%以上削減できた建築物だけが、その認定を受けられます。

寒い季節には、断熱性能が高いことで室温が下がりにくく、部屋ごとの室温差が解消され、居住される方の血圧が上がりにくい傾向があるといわれています。それだけ快適に暮らすことができるうえに、外気温の影響を受けにくく、年間を通してエアコンをあまり使わずに済みます。その結果、ZEHの認定を受けた住居は、一般的な省エネ基準の住居と比べて、光熱費が年間約6万6000円も安く済むという試算もあります(※2)

※1 着工(2022年4月)時点、発売が2013年1月~2022年10月15日までのMRC調査・捕捉に基づく
※2 試算結果:東急不動産「東京都に計画中の当社物件」住宅の省エネ性能レポート(専有面積100.70m2の場合)
【エネルギー消費量・光熱費計算条件】『省エネ基準の家』国が定める基準により算出した設計二次エネルギー消費量に設計一次エネルギー消費量に対する基準一次エネルギー消費量の割合を乗じて基準二次エネルギー消費量を算出し、燃料単価、換算係数を乗じて算定。『あなたの家』国が定める基準により算出した設計二次エネルギー消費量に燃料単価、換算係数を乗じて算定。実際の年間光熱費を保証するものではありません。設備の新設維持更新に要する費用は考慮しておりません。燃料単価、換算係数は「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会小売事業者判断基準ワーキンググループ取りまとめ」を参照。

【八塩】私も以前からZEHのことは知っていました。しかし、戸建て住宅での取り組みが先行しているという認識を持っています。千代田区で初めてとのことですが、マンションでの認定は珍しいのでしょうね。

【亀島】その通りです。当社では、2023年度以降に着工するBRANZの物件は全てZEH相当の環境性能とする方針を打ち出しました。ハードルは高いものの、それに挑戦していかないと世の中を変えていくことはできません。

そして、今後情報公開を予定している東急東横線「自由が丘」駅から徒歩5分の住宅街に誕生する「ブランズ自由が丘」も、同じようにZEHの認定を受けています。また、「ブランズ自由が丘」では10年後を見据えて植栽を管理していく「GREEN AGENDA」を導入しました。これまでは竣工しゅんこう時から緑の量を大きく変えない「維持抑制」がとられてきました。それを今回初めて計画的に緑を育成していくことで、生物多様性に貢献するだけでなく、緑に囲まれた空間で暮らすことでストレスの軽減効果を得るなど、住まわれる皆さまのウェルビーイングの向上も目指しています。

左:「ブランズ千代田富士見」の外観イメージ 右:「ブランズ自由が丘」の外観イメージ

「環境先進マンション」のニーズは今後ますます高まっていく

――業界大手の東急不動産のこうした取り組みに対する、八塩さんの評価を教えてください。

【八塩】個人がSDGsを実現していくうえで、「環境を守りながら、快適に住める」マンションが次々と誕生し、選択できるようになっていくことは、とても素晴らしいことだと思います。

実は、私たち家族がいま住んでいるのは戸建の住宅で、月々の電気代がすごく高いんです。そして夏とても暑くて、冬は冷え込んでしまう住宅なのです。それで以前からZEHに関心を持っていました。

また、緑に囲まれた生活をしたいと思って庭で花を育てたり、芝生を植えたりしても、日々の管理が大変です。その点で、マンションであれば管理費を納めることで、お任せすることができます。ちょうど住み替えを考えているところであり、お話に出てきた物件は私たち家族にとっても魅力的です。

――今後、ZEHはマンション業界の標準になっていくのでしょうか。

【亀島】現在、マンションの照明器具はLED照明が当たり前になっています。しかし、20年前くらいまでは、付いていたり、付いていなかったりの状況でした。今後ますます環境に対する意識が高まっていくなか、より快適に暮らしたいというニーズに応えていくうえでも、ZEHや低炭素住宅の認定取得の動きが強まっていくはずです。LED照明と同じように10年から20年も経つと、ZEHや低炭素住宅といった環境性能が当たり前になると見ています。

【八塩】住宅を購入する際には、その資産価値が下がらない物件を選びたいというのは、誰もが願うことです。将来、ZEHや低炭素住宅がスタンダードになるのであれば、いま先駆けて環境性能を備えていることは資産価値の点でも評価すべきことだと思います。

――ZEHだと購入時にさまざまなメリットもあると聞いております。

【亀島】ZEHの場合、住宅ローン控除における控除対象借入限度額が、省エネ基準に適合した一般の住宅よりも500万円上積みされた4500万円になります(※3)。また、今回ご紹介した両物件ともに低炭素建築物の認定を受けており、購入時の登録免許税の税率が、所有権保存登記で0.1%、所有権移転登記でも同じ0.1%になります(※4)。本則では前者が0.4%で、後者は2.0%なので、かなりの優遇です。

さらに、一部の金融機関では、ZEHだと、通常よりも安い金利で住宅ローンを借りられるところもあります。こうした優遇策があるということは、環境に関するハードルの高い認定を受けた物件が内包している資産価値を、国や金融機関も認めていることの証しではないかと思っています。

※3 令和4年・令和5年入居の場合
※4 令和6年3月31日までに取得の場合

【八塩】ZEHにせよ、低炭素建築物にせよ、まだ知らない人が多いはずです。それらの認定を受けた物件に住んだ方が、実際の暮らしぶりがどのようなものかをSNSなどで発信して世に広めてくれると、環境先進マンションがますます注目されて、さらに資産価値も高まっていくでしょうね。