人間のほか、ほとんどの動物には月経がない

ちなみに、月経(生理的発情に関係なく周期的に排卵し、子宮内膜が剥離・脱落するシステム)があるのは、人間のほかに、一部の霊長類や翼手類に限られる。ほとんどの動物には、月経というものがない。

分娩室で母親と新生児
写真=iStock.com/sefa ozel
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たとえばネコ科動物が選択した交尾排卵のように、交尾した瞬間に排卵すれば受精率は上がるのではないか。また、人間も季節性に排卵すれば、毎月あの鬱陶うっとおしいものに悩まされることもないのでは……。

田島木綿子『クジラの歌を聴け』(山と溪谷社)
田島木綿子『クジラの歌を聴け』(山と溪谷社)

それでも人間は毎月、定期的に排卵する。ヒトをはじめとする一部の動物に月経が備わった理由は諸説あるものの、遺伝的に問題のある受精卵が着床した場合、子宮内膜を脱落させて、淘汰できるしくみとして進化したという説が最も有力のようである。

古代ギリシャの医師であったヒポクラテスは、月経とは、健康を維持するために体内の有害物質を排出する現象と説いていたという。現在では、月経血中に多数の炎症性物質(サイトカインなど)が確認されていることから、月経は子宮及びその周辺部に繰り返しもたらされる生理的な炎症反応と理解されている。

月経とは、より優れた受精卵を着床させるよう進化し適応した結果であり、ホルモンの分泌をはじめとする女性の体を健康に保つためにも不可欠なしくみといえよう。

田島 木綿子(たじま・ゆうこ)
国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹

1971年生まれ。日本獣医生命科学大学(旧日本獣医畜産大学)獣医学科卒業。学部時代にカナダのバンクーバーで出合った野生のオルカ(シャチ)に魅了され、海の哺乳類の研究者を志す。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号(獣医学)取得後、同研究科特定研究員を経て、2005年からテキサス大学医学部とThe Marine Mammal Centerに在籍。2006年に国立科学博物館動物研究部支援研究員を経て現職。