人間と同じ胎盤はサルなど霊長類のほかに多産のウサギも

また、盤状胎盤をもつ動物たちは、食物連鎖の上位であったり社会性をもつものが多く、たとえ難産で出血が多くても、仲間同士で助け合い、守り合うことができる。出産にある程度の負担や時間がかかっても安定して胎児を育てられる環境にあるため、結合の密な胎盤を維持し、少数の子どもを確実に産み、育てる戦略を選択できたのだろう。

意外なことに、多産のネズミやウサギなども盤状胎盤をもち、最も密な結合タイプを示す。ネズミもウサギも外敵に襲われやすく、出産に時間はかけられないはずである。

ただし、多産で妊娠期間も短い繁殖サイクルを選んでいることから、短時間で効率よく胎児が成長するためには、ある程度のリスクはあるものの、このタイプの胎盤と密な結合を選んでいるのかもしれない。

出典=『クジラの歌を聴け』、イラスト=芦野公平
イラスト=芦野公平
出典=『クジラの歌を聴け』より

イヌにあやかって安産祈願をする理由

出産に比較的、時間のかかる身近な動物として、イヌが挙げられる。イヌの胎盤は「帯状胎盤」というタイプで、胎膜(漿膜しようまく、羊膜、尿膜で構成)の中央部分を帯状に1周して形成される。たとえるなら俵型のおにぎりに、くるっと巻かれた海苔のようである。

帯状胎盤は、イヌを含む食肉類に見られる胎盤で、胎児は帯状の胎盤でしっかり包まれ、とても安定した状態で成長できる。安産祈願のために「戌の日」にお参りする風習は、安定して妊娠を維持しやすいイヌにあやかっている。

その半面、胎盤と胎児が離れにくい内皮―絨毛膜という比較的密な結合であるため、こちらも出産に時間がかかるとともに出血も多く、母親の負担は大きい。このタイプの胎盤をもつ食肉類は、ライオンやトラなどのように食物連鎖では上位に位置する動物が多い。そのため、比較的安全な環境下で妊娠・出産を迎えることができる。

海に視点を移してみると、アシカやセイウチ、アザラシなどの鰭脚類、ジュゴンやマナティなどの海牛類も帯状胎盤で、比較的密な結合を有している。彼らも高度な社会性をもった動物で、多少難産であっても、それを乗り越えられるだけの仲間や環境が整っているといえよう。