体内時計を遅らせてしまうと逆効果にも

糖尿病の予防のためには、ブドウ糖が筋肉へ運ばれるタイミングの食後1時間たったころに運動すると、筋肉の血流が増え、インスリンの効果が高まり、血糖値を早く下げることができるとわかっています。

しかし、毎回食事1時間後に、運動できないという人も少なくないでしょう。その場合は、時間運動学的に夕方の運動をおすすめします。

インスリンの働きは、体内時計によってコントロールされており、朝、いちばん効き目が高く、夜になると効き目は低くなっていきます。そのため、インスリンの効き目が低下しはじめる夕方に運動で筋肉を動かすと、低下したインスリンの働きを助けることになると考えられます。

夕食の時間が午後4時や5時ごろと早い人は、夕食後に運動するとよいでしょう。しかし、午後7時過ぎに夕食をとる人は、食事のあとに運動をすると体内時計を遅らせてしまうため、夕食の前に運動するようにします。

トレーニングジムでバックラットプルダウンをしている女性
写真=iStock.com/kazuma seki
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大事なのは、運動習慣。決まった時間に運動する習慣をつけておくと、インスリンが少量しか分泌されなくても筋肉が糖を取り込む効率がよくなります。

夕方の運動が高血糖を改善するということは、これまで糖尿病の患者さんを対象にした研究でも確認されていました。

研究で夕方の運動効果の高さを実証

男性の2型糖尿病患者に週3回、運動強度の高いインターバルトレーニングを、朝行った場合と夕方行った場合で比較しました。すると、夕方の運動のほうが明らかに血糖値の減少が見られ、2型糖尿病の血糖値コントロールには、夕方の運動がより有効であることがわかりました。

柴田重信『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書)
柴田重信『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書)

ただし、インスリンを作る膵臓のベータ細胞が障害されて起こる1型糖尿病では、インスリン注射の影響で、夜間以降に低血糖が起こることがあります。その低血糖を防ぐのは、朝の運動のほうがいいという結果が出ています。

これらの研究を踏まえ、私たちは健康な若い男性10人を対象に、いつ運動すれば、血糖値を下げやすいか研究を行いました。

その結果、やはり夕方の運動のほうが血糖値が穏やかに下がり、糖尿病の予防にもなることがわかりました。

中強度の運動を週3回2時間、朝9時から行った場合と、夕方4時から行った場合を比べると、夕方に運動するほうが血糖値の上昇が穏やかで、血糖値をコントロールするインスリンの分泌を促すインクレチンも上昇しやすかったのです。

柴田 重信(しばた・しげのぶ)
広島大学医科学研究科特任教授、日本時間栄養学会(理事、顧問)

1953年生まれ。76年九州大学薬学部薬学科卒業。81年九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。早稲田大学人間科学部教授などを経て、2023年まで同大理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科教授を務めたのち、現在、同大名誉教授、広島大学医系科学研究科特任教授、日本時間栄養学会理事・顧問などを兼任。監修書『食べる時間を変えれば健康になる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著書『Q&Aですらすらわかる体内時計健康法 時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康』(杏林書院)、著書に『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』、『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書)ほかがある。