1905年の日立鉱山の開業に始まり、現在、銅やレアメタルを中心とした非鉄金属資源の開発や製錬、またそれを原料とする先端素材の開発や製造、さらにはそれら金属資源のリサイクルを手掛けているJX金属。ESG経営を重視する同社グループは、カーボンニュートラルの実現に向け、銅のリーディングカンパニーとしてさまざまな取り組みを進めている。その具体的な内容、またこれまでの成果について村山誠一社長に聞いた。

先駆的な取り組み、発想で課題の解決に臨む

2019年に策定した「2040年JX金属グループ長期ビジョン」の中で、同社グループが掲げているのが「『技術立脚型企業』への転身」だ。組織基盤を支える資源事業や製錬事業などを「ベース事業」、成長戦略のコアとなる先端素材事業などを「フォーカス事業」とそれぞれ位置付け、持続可能な成長を目指している。

JX金属の事業領域

銅やレアメタルを中心とした非鉄金属のサプライチェーン全般にまたがる事業展開を通じ、「脱炭素」や「資源循環」を推進している。

「技術による差別化に注力する背景には、データ社会の進展やSDGs達成への機運の高まりなど社会の変容があります。今、当社が扱う非鉄金属や先端素材にも高機能化と環境配慮の両立が求められている。長い歴史を持ち、資源の開発・採掘といった上流から先端素材の下流まで、広範なサプライチェーンをグループ内に有する私たちとしては、その中で培ってきた技術やノウハウが競争力の源泉です。それをいっそう向上させることで、社会にサステナブルな価値を提供していきたい。そう考えています」

村山誠一(むらやま・せいいち)
JX金属株式会社
代表取締役社長
社長執行役員

村山社長はそう説明する。創業期、日立鉱山の煙害を大煙突の建設で克服し、地域との共存共栄を果たしたJX金属グループは、その後も先駆的な取り組みや独自の発想で経営課題、社会課題を解決してきた。今や世界的な重要課題である脱炭素に向けた取り組みでも、その姿勢は変わらない。

同社グループは50年度に自社のCO2総排出量をネットゼロとすることを目標に掲げている。中間目標である50%減(18年度比)については、当初40年度の達成を目指していたのを30年度に10年前倒ししている状況だ。

「スコープ2(※)の脱炭素化に向けては、すでに電力使用量全体のおおよそ70%をCO2フリー電力で賄っています。これは、非鉄製錬業界において先行的な実績であると認識しています。今後は、製錬時の工程の見直しなどの新技術の導入も進めていきたい。加えて、採掘、輸送時などのCO2削減も大事なテーマです。この部分は、排出量の規模も大きいため、鉱山事業者などとの協業の可能性も探りながら、取り組みを推進していく考えです」と村山社長は言う。

※他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出のこと。

省カーボンな銅製錬に磨きをかけて社会貢献を

一方で、JX金属グループが取り扱う非鉄金属や高い世界市場シェアを有する各種先端素材は、それ自体が社会の脱炭素化に不可欠なものだ。例えば銅やレアメタルは、電気自動車、再生可能エネルギーの設備などで重要な役割を果たしている。また、社会のグリーン化を支える半導体や電子機器にも銅などを原料とする先端素材が多く使われ、その需要は拡大している。

「そうした中で供給の安定性を確保することが私たちの重大な使命です。ただし、単に供給量を確保するのではなく、脱炭素や資源循環を重視した生産、供給を行ってこそ、社会にサステナブルな価値を提供できる。そこで当社グループは目指す姿として『サステナブルカッパー・ビジョン』を策定し、具体的な取り組みを始めています」

このビジョンの核となるのが、銅精鉱とリサイクル原料の双方を活用する「グリーンハイブリッド製錬」だ。実は銅の製錬では、鉱石自身が発する酸化反応熱によって溶解が進むため、化石燃料の使用を最小限に抑えられる。さらに余剰熱を活用してリサイクル原料の処理も可能なため、環境負荷が非常に低いのが特徴だ。

グリーンハイブリッド製錬

銅精鉱とリサイクル原料を組み合わせ処理する製錬方法であり、銅精鉱自らが発する酸化反応熱を最大限活用することで、化石燃料使用量をミニマイズしたリサイクルができる。JX金属では、この製錬方法の推進により銅精鉱とリサイクル原料をバランスよく活用することが、省資源・省エネルギー・省カーボンの最適解と考えており、2040年のリサイクル原料比率50%の目標を掲げさまざまな施策を進めている。

「一般に金属の製錬というと、コークスなどが燃やされ、大量のCO2が発生するイメージがあります。しかし銅の場合は全く異なり、極めて省資源・省エネルギー・省カーボン。同時に都市鉱山などから回収したリサイクル原料に含まれる銅や貴金属、レアメタルを再生でき、とても効率的です。私たちはこれにさらに磨きをかけ、リサイクル原料由来の銅の比率を現状の2割程度から5割まで高めていきたい。なぜならそれが、需要家の皆さま、ひいては社会全体の脱炭素化や資源循環を後押しすることになるからです」

世界的に拡大する銅需要に応えるには、銅精鉱とリサイクル原料をバランスよく活用し、供給の安定化を図る必要がある。しかし、一口にリサイクル原料比率を高めるといっても、それは簡単ではない。例えば、炉内の熱量や熱の流れのマネジメント、投入する原料の粒度の調整など多様なノウハウが必要だ。まさに「技術立脚型企業」を標榜するJX金属グループの腕の見せどころである。

「これまで蓄積してきた知見を基に、技術革新を積極的に進めていくことが私たちの役割です。そこで大事になるのが率直なコミュニケーション。職位や社歴にとらわれず、仕事本位の意見交換ができる環境が創造力や開発力を養うのには欠かせません。もともと、“いいことはいい、悪いことは悪い”と言い合えるのがJX金属グループの社風ですから、脱炭素というテーマでもその本領を発揮していきたい。特にこれからは、社内だけでなく、大学や他企業と連携するオープンイノベーションにもいっそう力を入れ、自分たちだけではできないことにチャレンジしていきたいと考えています」

普段意識することは少ないが、銅やレアメタルなどの非鉄金属はさまざまな形で私たちの暮らし、産業を支えている。そのプロフェッショナルであるJX金属グループが持ち前の技術力、創造力によってどんな新たな可能性を開くのか、これからに注目したい。