どんな身なりをしようが、その人の自由である。だが、仕事場では事情が異なる。営業担当者は、商品やサービスを売り込む第一印象が不利にならないよう、身だしなみが最低限のエチケットとされる。また、職場の一体感や安全性、清潔感を保つため、服装などに明確なルールが定められる場合もある。

従業員の身だしなみをめぐる過去の裁判例
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従業員の身だしなみをめぐる過去の裁判例

法律上、労働者は就業時間中、会社の指揮命令下に置かれるため、上司から指示される身なりがあるのであれば、それに従う必要がある。しかし一方で、服装の「改善」を求める業務命令は、労働者自身のライフスタイルと一致しないおそれがある。

特に問題となりやすいのが、ヒゲや髪形、ピアス(の穴)などだ。服装であれば、仕事とプライベートを使い分けることもできる。しかしヒゲなどは身体との結びつきが強く、場面ごとに容易に着脱することができない。このような場合、法律は上司の指示と本人のライフスタイルのどちらを優先させるのだろうか。

「男性がヒゲを生やす行為は、憲法13条の幸福追求権の一環として保障される」と話すのは、森博行弁護士(大阪弁護士会)。

幸福追求権という響きだけ聞くと少し仰々しいが、要は、自分で選んで決めた行動に、他者から干渉されない権利だ。

とはいえ、幸福追求権は、どこまでも絶対的に認められるわけではない。企業運営などの都合で欠かせない目的があれば、必要最小限の範囲において幸福追求権も制約されうる。

森弁護士は、去る3月に神戸地裁が原告勝訴の判断を示した「ヒゲ裁判」(現在は控訴審に係属中)の原告代理人を務める。郵便貯金の内勤業務に携わってきた原告は、20年以上にわたってヒゲをたくわえていた。しかし、2007年の郵政民営化に伴い、当時の日本郵政公社は「身だしなみ基準」を策定。原告が勤める郵便局(支店)の独自基準で、ヒゲは「不可」とされた。