おわりに

評者が本書の特徴と考える以上3つのポイントはいずれも、私たちが慣れ親しんだ通常の社会科学の考え方とは180度、違っているように思います。私自身を取り上げても、誰かから与えられた研究しかしてこなかった自分、サラリーマンのように研究を職業として位置づけている自分がありました。そのなかにあって、自身の人生観や生き方に直接かかわる形で研究活動をすることが可能なのだということ、そして自分が人生を賭けてやりたいと思うことを研究することが大事なのだということが深いレベルで理解することができました。私の研究人生の変わり目にするりと滑り込んできて、自身の思いとも強く共鳴した一冊です。

東京の通勤風景

本書で著者の菅原氏が採った調査手法を「参与観察」という。調査者が調査対象とする集団の内部で長期間生活し、その実態をさまざまな角度から観察する方法だ。生活を共にすることで、ありきたりの外部観察では知ることができない対象者の考え方、感情を理解できる。さて、現代のマーケッターは「生活を共にしている」だろうか。離れた高い位置から、無意識のうちに「自分は違う」という目線で対象者を見てはいないだろうか。

(著者近影提供=流通科学大学 編集部=文中写真撮影)