2013年にアメリカで誕生し、ゴルフ関連のチャレンジングなブランドとして知られるPXGが日本市場でも存在感を高めている。昨年10月に日本法人代表に就いた庭山章ケント氏に、ブランドの特徴やこれからの市場開拓戦略について話を伺った。

型破りで率直、創業者ボブ・パーソンズ氏とは?

――創業者のボブ・パーソンズ氏はシリアルアントレプレナー(連続起業家)としてアメリカではたいへん著名ですね。どんな方なのでしょう?

【庭山】非常に型破りな実業家です。ゴルフをはじめ会計、テクノロジー、オートバイなど自分が愛するものを追求し、これまで3つのグローバル企業を立ち上げて成功させてきました。また、彼は元アメリカ海兵隊員で、人生とビジネスにおける自身の成功は兵役経験があったからこそ可能になったと語っています。

私自身は、会って話したとき、とてもストレートにものを言う姿勢が印象的でした。ビジネスリーダーとしては、自分がやりたいと思ったことは何でも全力で推し進めるタイプだと感じています。

彼がPXGを創業したのは、自身が熱狂的なゴルフ愛好家で「いいゴルフクラブがないから自分で作ってしまおう」と考えたからでした。そして、これまでにない最高のクラブを作るために最高の職人を迎え入れ、コストや時間に糸目をつけずに開発を行いました。

――PXGのビジネススタイルやブランドの特徴を教えてください。

【庭山】ゴルフ用品業界の他の大手とは異なる形でビジネスを展開しています。特に本拠地であるアメリカでは、卸問屋などを通さず、各ゴルファーに対して直接販売するB to Cの形を基本としています。消費者への直販ブランドとして、顧客を熟知しており、すべての製品を責任を持って販売しているのです。

ブランドの最大の特徴は、すべてのクラブが各ゴルファーの目標に沿うように作られた「カスタムフィット製品」であるという点です。一本一本が対面、電話、またはウェブサイトを通じて打ち合わせをした上で、その人に合わせて組み立てられます。まったく同じスイングのゴルファーはいないように、PXGにもまったく同じクラブセットは二つとありません。

こうしたスタイルを通じて、PXGは顧客とビジネス上の取引を超えた有意義な関係を築いてきました。一方で、当社のクラブは初期には販売数も少なく超高級品でした。今もそうしたイメージを持っている人は少なくないと思いますが、認知度の高まりや企業努力によって、最近は手が届きやすい価格帯のものも登場しています。

PXG Japan合同会社
ジェネラルマネージャー
庭山 章 ケント

2012年、テーラーメイドゴルフ株式会社にて、副社長ブランドマーケティング担当として活躍。2014年、プーマジャパン株式会社において、ゴルフ事業部部長として従事。2016年、トラックマン株式会社代表取締役社長として、アジアセールス&マーケティングを担当。2022年10月31日付でPXG Japan合同会社 ジェネラルマネージャーに就任。

我々が提供するのはゴルフクラブだけではなく「特別な体験」

――近年は日本市場にも進出を果たしました。

【庭山】2020年にPXG Japanを設立し、本格的に日本に進出しました。日本の消費者は教養と見識があり、日本のゴルフ市場は世界第2位の規模を持っています。PXGは研究開発企業として、製品のイノベーションとパフォーマンスの向上に情熱を持って取り組んでおり、日本市場の注目を集め、その要求に応えられる体制を整えています。

ただ、販売スタイルはアメリカとは違い、これまでは卸問屋を通してお客様に製品を届けてきました。しかし、PXGの理念からすれば直接販売も重要で、これを実現させることが私のミッションだと思っています。

私は2022年に現職に就くまで、約11年間ゴルフ業界に携わってきました。ゴルフ用品メーカーや球技向けの弾道測定器メーカーなど数社で仕事をしてきましたが、PXGはそうした同業他社とはまったく違うビジネス手法をとっています。これは面白い、ぜひチャレンジしたいと思って参加を決めました。

2022年、ボブ・パーソンズは「日本のゴルフ市場の重要性を再確認し、日本での取り組みを拡大する」と強調しました。今後、我々の事業はアメリカのほかイギリス、カナダ、日本がメインになると。私たちはそれほど日本のゴルフ市場を重視しているのです。

――日本市場ではどんな顧客を獲得したいと考えていますか。

【庭山】日本では、若いプレーヤーの間でゴルフへの関心が高まっています。彼らは自身のライフスタイルとアイデンティティーを、進歩的で楽しく、かつ革新的で結果重視といったイメージのブランドと一致させようとする傾向を持っており、PXGはそうしたニーズに応えています。

私としては、日本の若者たちに「ゴルフは楽しくできるスポーツだ」というイメージを持ってもらいたいですね。日本のゴルフ人口は、35年ほど前には1200万人もいましたが、今は700万人程度に減っています。ゴルフを愛する若者をもっと増やしていかないと、日本のゴルフ業界は衰退してしまうでしょう。

ですから私たちは、最新のテクノロジーを用いたゴルフクラブやゴルフ場以外でも着られる格好いいアパレルなどを通して、日本の若者の中に「PXG=楽しくゴルフできる“体験”を提供するブランド」というイメージを醸成していきたいと考えています。

ボブ・パーソンズは「私たちは単にゴルフクラブを売っているわけではありません。特別な体験を提供するビジネスに携わっているのです」と語っていますが、まさにその言葉通りであり、この点も私たちの大きな特徴です。

――PXGは、顧客に対して使う言葉や独自の「ヒーロープログラム」なども特徴的ですね。

【庭山】PXGは、意図的に斬新で型破りな言葉を使うことで人を惹きつけ、ゴルフを大衆化してもっと楽しいものにしたいと考えています。PXGのクラブは人々のためのゴルフクラブです。今後も、製品とその革新的なストーリーを、大胆で型破りな表現によって親しみやすく、かつ特徴的な形で伝えていきます。

また、アメリカで展開しているヒーロープログラムは、軍隊経験者や消防隊、警察官などの「ヒーロー」たちに対してクラブを手頃な価格で提供するというもので、ボブ・パーソンズのルーツを称えるとともに、PXGとヒーローたちをつなぐ重要な架け橋のひとつです。日本でも適切に実行可能だと確信できれば、いずれ展開するかもしれません。

創業者夫人が手掛けるアパレル部門との高い相乗効果

――PXGの事業成長にはアパレル部門との相乗効果も大きいといわれています。

【庭山】アパレル部門のプレジデント兼エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターは、ボブ・パーソンズの夫人であるルネ・パーソンズです。彼女は実業家、慈善家、かつファッションのスペシャリストで、2018年にPXGアパレルを立ち上げました。

その後、事業を構想段階から販売まで強力に推し進め、現在のような、自信に満ちあふれ魅力的で時代に合ったスタイルを提供するに至ったのです。加えて、彼女はSDGsへの関心も高く、地球環境や労働環境に配慮した製品作りにも力を注いでいます。

PXGアパレルは、すっきりとしたシルエットや高い機能性などが特徴で、ゴルファー以外の人々にも高い人気を誇っています。2022年11月には、歌手で俳優のニック・ジョナスをフィーチャーした「ニック・ジョナス・ライン」の販売を開始しました。

――日本で業績を伸ばすために、今後どんな施策を展開する予定ですか。

【庭山】日本のゴルファーは、道具ひとつとっても非常に深く考えて選びます。アメリカ人からすれば驚くほどの考え深さですが、PXG Japanはそうしたニーズにしっかりアジャストしながら、かつ日本の文化や慣習にも寄り添いながらビジネスを展開していくつもりです。

PXGはアメリカで大いに成功していますが、日本で同じやり方を押し通せば失敗する可能性もあります。ですから、ボブ・パーソンズのやりたいことや考え方が日本でどこまで通用するかを慎重に見極め、ときには意見したり説得したりすることも私の重要な役割のひとつだと思っています。

PXGはゴルフクラブとアパレルを最高級の素材と高度なテクノロジーを駆使して開発し、世界中のゴルファーに提供しております。すべてのゴルフクラブはそれぞれのゴルファーに合った仕様で手作業で組み立てられます。今後、日本市場向けのクラブやアパレル製品を市場動向とニーズに合わせて、さらに拡大する機会があるかもしれません。アパレルの場合、サイズ感をはじめフィット感やシルエットに関しては特に重要となります。

さらには、若い顧客を獲得するため、都心に路面店を作ろうと計画中です。まずは2023年末までに、PXGの全製品をフィッティング・購入できる拠点をひとつオープンさせ、将来的には他の地域にも拡大していきたいですね。

引き続き、ブランドの認知度向上にも努めていきます。PXGには初心者からトッププロまで使える多彩なラインナップがあり、高級品だけでなく手頃な価格の製品も揃っています。こうしたことを日本の皆さんに広く知ってもらえるよう、周知活動に取り組んでいきたいと思います。