あなたの人生は、あなたの意思とは関係なく、まわりの「環境」によって決められたものですか? それだけだと、ちょっと寂しくありませんか? そう、あなたの意思には大きな意味があるのです――この本には、そういうことが書いてあります。読むと「勇気が出ること請け合いです」と石井先生。目に見えない、手では触ることができない「人の意識と世の中の関係」を掴む仕事をしている人――そう、マーケティングに携わるあなたにとって必読の1冊です。日本のマーケティング研究の第一人者・石井淳蔵先生による、ビジネスパーソンの知性を刺激し、こころを元気にするブックレビュー。

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石井淳蔵(いしい・じゅんぞう)●1947年、大阪府生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。神戸大学大学院経営学研究科教授などを経て、2008年4月より流通科学大学学長。専攻はマーケティング、流通システム論。『ブランド』『マーケティングの神話』など著書多数。「プレジデント」連載「経営持論」の執筆陣でもある。

「人の意識は環境が決める」だけでは、寂しすぎる

「何かを思うことで存在が生まれる」とか、「意識が存在を創り出す」などと言うと、ちょっとカルトっぽい感じになります。逆に、「存在が意識を規定する」という方は自然に見えます。ですが、そこから、社会の経済的諸関係であるところの下部構造が社会の意識たる上部構造を規定するとか、さらには人の意識や観念はその人が置かれた環境によって決められると言われると、さて、どうでしょうか。

人(あるいは人々)は自分の状況を選んだり創り出したりできないのでしょうか、あるいは自分で考えたり想像したりすることやこうやりたいと思う意志は、あらかじめ存在=環境によって決められているのでしょうか。

「そう反問されると、存在が意識を規定するという命題も、何かちょっと寂しい気がするなあ」と思われる方も多いと思います。そんな時は、マックス・ウェーバーのこの本、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読むと勇気が出ること請け合いです。人の意識や観念が、新しい現実を創っていく1つの大事な源なのだということを信じてもよいと思うことができます。

(編集部=撮影)
略称「プロ倫」。マックス・ウェーバーの『宗教社会学論集』の中の1点。カネ儲けを卑しむピューリタニズム(キリスト教清教徒主義)が、実は近代資本主義誕生のきっかけになったという歴史の不思議を研究した名著。日本では、長く岩波文庫版(1954年初訳、88年改訳)が読まれてきたが、2010年に新訳が登場した。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
中山 元訳、2010年、日経BP社刊

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
大塚久雄訳、1989年、岩波文庫