母親の一人暮らしに関する課題
石黒さんは、忌引きの1週間で感じた介護の必要性をまとめてみた。
1.脚力の低下(1週間の間に3回転倒している)
2.右手の痺れ(玄関の鍵が開け締めできない、フライパンを持てない、衣類の着脱も一苦労、ボタンは無理)
3.トイレの失敗(尿取りパッドを使用して、トイレに行っているが、かなりの確率で失敗している)
4.入浴の問題(体臭があり、1人では入浴が困難な上、危険もある)
5.服薬管理(薬が多すぎて管理が難しく、間違いや飲み忘れがあった)
6.認知症と思われる症状(あり得ない話をするなど、認知症による夜間せん妄と思われる症状が目立つ)
7.父親を失ったショック(夜中に「お父さん、連れてって〜」と呼びかけるなど父親を失ったショックが大きい)
中でも、父親を失ったショックは大きかったようで、実家で母親と過ごす中で、母親の「父親に対する思い」や「喪失感と不安感」などを目の当たりにする。
「食事の支度や着替え、入浴やトイレなどのフォローは、ずっと父がしていたのでしょう。私が子どもの頃から独り立ちした後までずっと、私が来るといつもお互いの不満ばかり話してきた両親ですが、いざ父が亡くなってしまうと母は、『あんなに優しい人はいない』『一生懸命働いた人だから』と褒め言葉しか出てきません。父が亡くなってからの母の落ち込みようと言ったら、すさまじいものがありました」
食欲は落ち、ご飯と味噌漬けだけは辛うじて食べたが、身体は斜めに傾き、箸からご飯はこぼれ落ち、「食べることはもちろん、座ることすらしたくない」そんな様子が続く。夜になると母親は、「ね〜、オラも連れて行ってよ〜」と何度も何度も暗い空中に語りかけた。
父親が亡くなった4〜5日後には、福祉用具貸与で手すりと介護ベッドのレンタル、ホームヘルプサービスを利用し始めたが、母親の気落ちした状態はしばらく続き、利用を開始した訪問診療の看護師さんも、「お母さんは、お父さんの遺影を見ながら、濡れた尿取りパッドを握り、『こんなこともできなくなっちまった……』と肩を落としていました。メンタルの方が心配です……」と話していた。
「私にとって最もショックだったのは、父が亡くなった影響で、生きる気力を失った母を目の当たりにしなければならなかったことでした」
石黒さん夫婦は、母親のこの状態を立て直すことに躍起になった。