サイエンスナビゲーター 桜井 進(さくらい・すすむ)●1968年、山形県生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業、同大学大学院修了。東京工業大学世界文明センターフェロー。主な著書に『感動する!数学』『面白くて眠れなくなる数学』など。

いいことも悪いことも半分ずつ。人生は「五分五分」だと言われますが、実は幸運が訪れる確率のほうが高いのです。一体なぜそのようなことがいえるのか? その理由は「数学」で証明できます。

大げさな表現に聞こえるかもしれませんが、この世の森羅万象は数の世界によって支配されている。世界は数学でできています。よって、例えば素敵な異性と出会えるかどうかといった予測困難と思える現象が起きる確率も算出できるのです。

ひとつ問題を出しましょう。AさんとBさんが1から3までのトランプのカードをよく切ってから順番に机の上に置きます。このとき、出したお互いのカードの数字が一致すれば「出会い」が起きることとします。Aさんが左から「1・2・3」の順でカードを出した場合、まったく一致しない確率はどのくらいあるでしょう。

Bさんのカードの出し方は次の6通りがあります。〈1・2・3〉〈1・3・2〉〈2・1・3〉〈2・3・1〉〈3・1・2〉〈3・2・1〉。まったく一致しないのは〈2・3・1〉と〈3・1・2〉の2通り。だから答えは、6分の2=3分の1で約33%です。逆に言えば、少なくとも一つでも一致する確率は、6分の4=3分の2で約67%ということになります。

では、カード数を13枚にしたらどうなるでしょう。まったく一致しない確率は約37%で、少し数値が高くなります。では、100枚なら? 当然、数値が高くなると思いきや、さにあらず。何とこちらも約37%なのです。さらに驚くべきことに、カード数が1億枚でも1兆枚でも結果はやはり37%。ということは、少なくとも1つでも一致する確率は、カード枚数に関係なく63%とほぼ一定なのです。

まったく出会いが起こらない確率である37%は、スイスの数学者レオンハルト・オイラーが発見したネイピア数(e=約2.718)で1を割った数。ネイピア数とは自然対数の底とも呼ばれ、微分積分学にとって最も重要な定数のことです。