ゲートキーパーとしてトップと現場を繋ぐミドルマネジメントだが、多くの企業でその機能が低下している。その原因として、ミドルの育成に関する考え方が現在の環境に適応できなくなっていると筆者は説く。
優れたミドルとはローマ神話の双面神「ヤヌス」である
私はミドルマネジメントという存在は、ローマ神話に出てくるヤヌスという神様にたとえられるのではないかと考えている。門や扉の守護神であり、入と出という2つの流れを司る意味で、頭の前後に反対向きの2つの顔をもつ双面神である。
ミドルマネジメントもこうした二重性をもっている。まず、ミドルは戦略とその実行を繋ぐゲートキーパーとしてトップと現場との境界に位置する。役割はトップから下りてくる無形の戦略目標やビジョンを、部下の行動と成果という有形の戦略実行へと変換することである。アイデアを形にするという高度な転換作業である。
また同時にミドルは、現場の変化や動向に関する情報をトップに繋げるゲートキーパーでもある。顧客の変化や新たな脅威や機会の出現は、現場で最初に把握されることが多い。こうした情報を集め、トップにわかる形に翻訳し、伝え、次の戦略へと繋いでいくのもミドルの役割である。
さらに優れたミドルは、この過程で、部下の意欲をうまく保ちながら、同時に部下を育成する現場リーダーでもあった。企業内で起こる人材マネジメントの多くは、実際は現場の長である、ミドルマネジメントが行っている。
わが国の企業は、こうした理解のもとに機能するミドルを育ててきたのである。競争力のある企業には、前回のこのコラムで述べた「組織力」の一部としての、機能するミドルがいたのである。
ただ、近年、こうした両面性をもつミドルの機能が低下しているといわれることが多い。トップダウンで指示を出す経営と、権限委譲を求める現場との狭間で苦労するミドル。または経営による指示を翻訳せずにそのまま部下にフォーワードする“転送”ミドル。
また人材面では、部下育成のための余裕がなく、困っているミドル。職場に増えた非正規社員とどうコミュニケーションをとっていいかわからず困っているミドル。多くの場面でミドルマネジメントの機能低下が起こっているという議論が聞かれるのである。実際、表に示した経団連による調査からも、多くの企業が、中間管理職のプレーヤーとしての能力に満足しながら、同時に本来のマネジメントに関する能力についての不安をもつ様子が見てとれる。
こうした状況に至った原因は何なのだろうか。しばしば指摘されるのは、ミドル自身の弱体化だ。ミドルの資質や能力、意欲が低下したという議論である。
確かにこの側面も見逃せないのかもしれない。でも本当にそれだけを考えていていいのだろうか。
私にはそうは思えない。なぜならば、現状を見ると、ここにあげたようなミドルの姿は、必ずしもミドル自身の能力低下のせいだけではないと思われることが多いからだ。いや実は能力の低下さえも、根源ではミドルの置かれている状況が変化したことが、ミドルの力を削ぐ結果になっているからかもしれないと考える。私は根本的に、ミドルの育成に関する考え方自体が現在の環境に適応できなくなっているのではないかと思うのである。