在日米国大使館のホームページに、日本に対する米国の要求を列挙した「日米経済調和対話」が掲載されている。日米経済調和対話の前身は、日米両政府が互いに規制や制度に関する要望をまとめ、政府間で毎年交換された「年次改革要望書」(日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書)だ。米国の高圧的な要求が多く、日本側は常に防戦の立場に立たされていた。民主党政権樹立後に廃止された同要望書が、日米経済調和対話として甦ったのである。

米大使館のサイトにその和訳が掲載されている。「運輸・流通・エネルギー」欄の「自動車の技術基準ガイドライン」には次のように記載されている。

「革新的かつ先進的な安全機能を搭載した自動車に関する自主的ガイドラインを定める際の透明性を高め、また自主的ガイドラインが輸入を不当に阻害しないよう確保することで、米国の自動車メーカーがこうした自動車を日本の消費者により迅速かつ負担のない形で提供できるようにする」

これに対する民主党関係者と自動車業界関係者に共通する解釈は、要求されているのが「ハイブリッドなど最先端の低燃費車で日本メーカーが開発した安全機能などに関する情報開示」であり、「米国に技術情報を無条件に開示せよ」というものだ。

恐るべき支離滅裂・無理難題の要求だが、これがもし当を得た分析であれば、ここであらためて米国の交渉戦術を冷静に見据えておかねばならない。

(AFLO=写真)

前述の米下院公聴会で牛肉市場の非関税障壁として共和党議員がやり玉に挙げたのも「安全基準」だった。つまり、国民を守るために日本国家の主権が決めた「牛肉や自動車の安全確保」を、米国は理屈にもならない物言いで崩そうと考えているということだ。それを日本の“非関税障壁”だと強弁するゴリ押しが米国対日戦略ということであれば、その非論理性と野蛮な無理強いは、あの国がもはや「先進的な文明国」ではないことを物語っている。まともな交渉ができる相手ではないということだ。

だが、それ以上に気になることがある。市場に対する米側の「立ち位置」である。日本の自動車市場は前述のように関税ゼロだ。対する米国は、相変わらず高い関税率を設けてずうずうしくも自ら否定する保護主義を貫徹している。「国家エゴ」は、どの国にもあって当然だが、これは別の話だ。政府の使徒であるUSTR要人を水面下で“暗躍”させる一方で、声高に自由市場を言い立てる米側の「平然とした矛盾」が気になるのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(ロイター/AFLO=写真)