米国は今、自国の衰亡に歯止めをかけるため、世界の成長エンジンであるアジアを米国経済の市場として支配するため、全力を傾けている。米国が国家として「環太平洋経済圏」のハンドリングにこだわるのは当然だ。

ウェンディ・カトラーUSTR代表補(Bloomberg/Getty Images=写真)

その米国が日本にTPP加盟を迫る狙いは2つある。第一に、そのシステムとルールに日本を参加させさえすれば、日本に蓄えられた莫大な富が日本から米国に移動するに違いないという自信に満ちた戦略と予測があるからだ。第二に、TPPへの日本の参加が、急激に力をつける中国を近い将来、軍事とともに包囲する基盤となるからである。軍事と経済は政治のためのバーゲニング・パワー(交渉力)であり、また逆に、政治は経済を目的として動く。米国が「沖縄の基地を確保(軍事)」し、「TPPを主導(経済)」しようと躍起になるのはそのためだ。その両輪を柱とする政治環境をベースとして、米国は巨大中国を相手にした今後の対中外交という「政治」を動かそうと考えている。

年明け早々、TPP協議の米側責任者に就くのはウェンディ・カトラーUSTR代表補。韓国がズタズタにされた米韓FTAで、米政府交渉責任者を務めた腕利きの才媛だ。

数多い多国籍企業の後ろ盾が噂されるキッシンジャー氏(写真左)。(PANA=写真)

一方、TPPを仕掛ける多国籍巨大企業は、アメリカ合衆国という国家とは距離を置いた世界観を形成している。野田首相がTPP交渉参加を表明した夜、大御所H・キッシンジャー元大統領補佐官は日枝久フジテレビ会長とともに首相官邸を訪れ、「喜ばしいことだ」と称えた。

いずれにせよ、賛否が分かれるTPP参加問題で対峙しているのは“国vs国”ではなく“多国籍巨大企業vsそれ以外”ということである。“それ以外”には無論、国家も含まれる。彼らにとって、国家は自らの力の増幅装置でしかないからだ。

要は、TPPは、環太平洋を新たな土俵として彼らが契り合う「亡国と棄民のパートナーシップ」なのである。

※すべて雑誌掲載当時