林 成之●日本大学大学院 総合科学研究科 教授。1939年生まれ。日本大学医学部、同大学院医学研究科博士課程修了。米マイアミ大学や日本大学医学部などで救命救急に携わる。2006年より現職。『脳に悪い7つの習慣』『ビジネス〈勝負脳〉』など著書多数。

最後に、学習にとって感情がいかに大切かという話をしたいと思う。目や耳などの感覚器官から取り込まれた情報は、大脳皮質を通って、情報を認識し判断する前頭前野に送られる。この際、一部の情報がA10神経群という複数の神経核からなるルートを通ることがわかっている。

このA10神経群は、情報に対して「危険だ」「好きだ」「嫌いだ」といったレッテルを貼るのだが、ネガティブなレッテルを貼られた情報はわずか3日で忘れ去られてしまう。また、4日前の朝食は、ほとんどの場合特別な意味を持たない。多くの人が4日前の朝食のメニューを覚えていないのは、そのせいだ。

一方、「面白い」「好きだ」といったポジティブなレッテルを貼られた情報は、前頭前野から脳のさまざまな部位にフィードバックされ、記憶としてしっかりと定着し、そこから思考や心が生まれてくることになる。

では、どうすれば情報にポジティブなレッテルを貼ることができるのだろうか。それには、人の話を感動して聞く習慣、どんなことにも感動して取り組む習慣を身につけることである。

先日、ある実業団の陸上部から講演を依頼されたのだが、そこで一風変わった選手に出会った。彼は講演の後に、こう質問してきたのである。

「私は試合に負けても悔しくないし、勝っても驕った気持ちになりません。これは試合をするうえでいいことなのでしょうか」