林 成之●日本大学大学院 総合科学研究科 教授。1939年生まれ。日本大学医学部、同大学院医学研究科博士課程修了。米マイアミ大学や日本大学医学部などで救命救急に携わる。2006年より現職。『脳に悪い7つの習慣』『ビジネス〈勝負脳〉』など著書多数。

学習に不可欠な統一・一貫性だが、実は、この本能にはやっかいなクセがある。自分の身が危うくなったとき、数の多いほうに統一・一貫性を働かせてしまうのだ。このクセが出てしまうと、人間は正しい、正しくないといった正否の判断を誤ってしまうことになる。

これは政治課題の選択などでよく見られる現象なのだが、ある政治課題について、自分はAという選択が正しいと思っていても、多くの人が「Bが正しい」と言いだすと、それに引きずられてBを選択してしまう。薄々間違っていると思っていても、人間はどうしようもなく数に引きずられてしまう存在なのだ。まさに「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というわけだ。

統一・一貫性の本能には、もうひとつ落とし穴がある。それは、新しい発想を受け入れたがらないというクセである。

統一・一貫性は似たような発想、自分に馴染み深い発想に対して拒絶反応を示すことはない。しかし、新しい発想に出合うと、強い拒絶反応を示す。別の言い方をすれば、正しい、正しくないを判断できるということは、独創性を発揮しないことが前提になっているのだ。いつも新しい考えを受け入れて、自分の考えがコロコロ変わるようでは、正しさの基準が年中変わることになってしまうというわけだ。