あふれるゴミの中で見つけるオリジナリティ

世界の新しい側面を見せてくれるのが“良い本”だとするならば、間違いなくその一冊に数えられるだろう。

ジャーナリスト 笹井恵里子氏
ジャーナリスト 笹井恵里子氏

プレジデント誌でも連載を持つ笹井恵里子さんが上梓した新刊のテーマはゴミ屋敷だ。足の踏み場がないどころか、家に出入りするのも難しくなるほど、物にあふれた家はなぜ生まれるのか。外では普通の社会生活を営めているのに、自宅をゴミ屋敷にしてしまう人の存在や心の問題を知ったことが、本書の出発点になった。

2018年の春から何度も取材をしてきた。ただ、取材と言っても傍観者でいたわけではない。東京都大田区を中心に生前・遺品整理を行う「あんしんネット」の現場で、作業員の一員として物の整理やごみの処分を行った。

「実際に足を運んだ現場が読者にも見えるように」と描かれるゴミ屋敷の姿は壮絶だ。笹井さん自身は「読者に嫌悪感を抱かせないように気をつけました」と語るが、積み上がったゴミの臭いや部屋の湿度まで伝わってくる描写は、身震いしてしまうほどリアルだ。部屋には糞尿の入った容器や袋が散らばり、あちこちから虫が湧く。少しページをめくっただけで、作業環境の過酷さがわかる。

それでも取材現場に身を置き続けたのは、使命感によるものだ。