マーケティング担当がモノづくりにもの申す柔軟な組織

三菱鉛筆の優れている点はこのようにセクションにとらわれない柔軟な組織構造と自由度の高い組織運営にある。

往々にして、モノづくりはモノづくりのプロ、研究開発は研究開発のプロがいて、専門知識をひけらかし、他部門の人間が発言しにくい状況をつくり上げているのが普通である。分業関係といえば聞こえはいいが、埒外の輩がモノづくりにまで口を挟むのはまかりならんといった重苦しい空気が蔓延する。現在でもこのような組織は多く、これらの組織は根本的にマーケティングを実践できない。時々刻々変化する消費者のニーズをきちんと商品に反映することができないからだ。

とりわけ、R&D部門が充実している同社ではその種のセクショナリズムが強くはたらきそうな気がする。

ところが実態はその正反対だ。消費トレンドや消費者の購買パターンなどを知悉した商品開発部の要員が、対等の立場で商品の基本スペックの改良に意見を述べ、両者のベストミックスとして商品を誕生させているのである。

重要なのは、商品開発で一体化し、自由に意見を言える組織風土であり、このような組織面の柔構造は容易に組織内の叡智を結集させることができ、とりわけ現代のような変化の激しい時代に創造的な適応を可能にする。

ヒット商品を生み出すうえで、同社の傑出した点は、研究開発力や柔軟な組織構造だけにとどまらない。その評価のプロセスでも真価を発揮している。実はクルトガの初期バージョンは発売より2年さかのぼる06年春にはすでに出来上がっていた。

このとき、同社は社員を対象にクルトガの社内アンケートを実施している。実際に紙の上に字を書いてもらって、使用感を答えてもらったのだ。この結果は、中山氏が「ボロボロ」と言う通り、惨憺たるものだった。紙一枚分書いてもらえれば、従来のものより字がきれいに書けることを実感してもらえるはずと、同氏は意気揚々と社内アンケートに臨んだ。

ところが被験者たちからは書き終えてみて「違い」を見てもらえるどころか、書いている段階ですでに書き味が悪いとブーイングを食らったというのだ。確かに、筆者自身、この初期バージョンを使わせていただいたが、歯車独特のグシャグシャするような抵抗感があって、お世辞にも書き心地のいい筆記具とはいえなかった。