山田昌良氏
撮影=小川 聡

「E」と「D」で、大きな違い

私たちは、ロート製薬の傘下にあって、長年安定したOEM事業に恵まれてきた。一方で、化粧品の訪問販売から事業をスタートさせたこともあって、独立自営をモットーとしている。開発部門を抱え、敏感肌専用の化粧品の自社ブランドも展開している。それらは、アジアを中心に海外でも高い評価を受けている。

ただ、主力はやはりOEM事業であり、マーケット変化のスピードは、年々速くなっていくばかりで、前例踏襲がしみつき、「クライアントの言うことを聞いていればいい」といった企業文化では、いずれ取り残されてしまうに違いなかった。

まずは、OEMから脱却するため、ODMに移行することにした。EとD、たった1文字の違いだが、メーカーにとっては天と地ほどの差がある。ODM(Original Design Manufacturing)は、言われたものをつくるだけではなく、OEM(Original Equipment Manufacturer)では行わない商品設計も手がける。

商品コンセプトを考える起点は、「誰にどのような貢献をしようとするのか」とし、これを徹底した。モノの開発・生産すればよいのではなく、お客様に「価値」を提供できる会社を目指そう、という私なりの宣言でもあった。

そもそも自社ブランドのメーカーとして出発している企業のため、企業風土の根底には「お客様のために」という気持ちがある。その気持ちをベースに、社員が力を発揮できる状態にしたい。ODMを含めた各事業がシナジーを起こすような経営モデルをつくりたい。模索の日々でもあった。

自社ブランド展開でもODMでも、最終的には生活者のための仕事。生活者に貢献する仕事ができるようになるためには、マーケティング力を磨かねばならず、それにはまず、自社ブランドの商品開発の在り方を根底から変え、その知見をODMに還流させるのがいい、そんなふうに考え始めた。

自分たちで売らないといけない

ある日のこと、かつて一世を風靡ふうびした化粧品を手がけたOEM企業を訪ねた。応対してくれた役員が、目を輝かせながら技術の説明してくれた。私が、「それ(技術)を使って、どんな商品を展開されるおつもりですか」と質問すると、「いやいや、お申しつけいただければ何でもお手伝いします。ウチはいい腕を持っていますよ~」とお答えになった。このやりとりに、少なからず衝撃を受けた。OEMに頼り続けた場合の、当社の未来を見たような気がしたからだ。

彼らは、いい意味でも悪い意味でも、「技術屋」なのだ。つくることだけにこだわっていると、彼らと同じになる。自分たち自身でエンドユーザーと向きあい、価値をつくり、さらには、独自のルートで売っていく。そこまで自力でやらないと、彼らと同じではないか。

たどりついた、ドラッカーの言葉

さまざまな手を打ち始めていたものの、明確な戦略を描き切れていなかった私は、あらためて自分たちの強みを整理することにした。たどりついたのが、ドラッカーが言うところの「卓越性」だった。

通常、スキンケアの効果と安全性はトレードオフの関係にあるが、私たちはそのバランスをとることが非常に得意だ。また、リップクリームのようにオイル製剤を固形化させる技術も高い。これらの卓越性については、無自覚になっていたため、社内外での聞き取りを重ね、あらためて気づかされたものだった。日常的に難易度の高い仕事をしていても、そのことを意識することはあまりない。

卓越性を使って、どんなことができるか。自分たちで売るのだから、急にたくさん売れるわけではない。じっくりブランドを育てていくことになるだろう。だとしたら、広く買われるものではないが、一部の人にその価値を高く評価していただける、いわゆるプレミアムブランドに挑むのがいいと思った。顧客に寄り添う形で、本当のモノづくり、価値づくりをやってみたい。顧客と卓越性でいく、私の腹は決まった。