税理士がついていない納税者の調査は、調査官から避けられる

脱税をしていると思われる者には、国税局の査察部が担当する。立件まではいかないけれど、高額悪質者であると思われる者については、国税局の資料調査課が担当する。

査察部や資料調査課で調査に当たるものは、所轄の税務署の調査官よりも不正発見に対する使命感が高くなければならない。

一方、所轄の税務署で行う調査は、査察部や資料調査課が扱うほどのボリュームがないもの、ということになる。国税局で行う調査は過酷極まりない。筆者は、家庭第一で子育てを重視していたため、国税局で勤務したことはなかった。故に、26年間現場にいたけれど、扱った事案はそれほど大きいものはなかったといえる。

最近では、所轄の税務署もできるだけ二人一組でいくようにしているようだが、筆者が在職していた頃は、一人で税務調査に行くことの方が多かった。

どこに調査に行くかは、選定と呼ばれる事務の中で行われる。経験年数が多く年齢が上の先輩から行きたい事案を選んでいく。当時、まだ駆け出しの下っ端だった筆者は、先輩が選んだ残りの事案に行かせてもらっていた。

先輩は、それぞれに、好きな業種や得意な業種があった。所轄の税務署には、自ら困難な事案を手掛けたいという人はあまりいなかった。記録の残っている製造業は調べやすいので人気だった。逆に、記録を残さなくても商売が成り立つ、飲食店などの現金商売の調査に行きたがる先輩はあまりいなかった。

もうひとつ、先輩が行きたがらない案件があった。

それは、税理士が入っていない事案だ。

なぜ先輩調査官は、税理士が入っていない案件を嫌うのか。それは、税務調査がなかなか終わらないからだ。税務調査では、しばしば見解の相違という場面に遭遇する。

税理士が入っていると打開策を打ち出してくるが、税理士がいないと納税者と直接やり取りをしなければならない。

「そこが認められたのなら、ここも許してもらえるのでは……」

納税者相手では、なかなか調査金額が決まらず、無駄な時間を費やすことになる。

電話の受け答えからして「ヤバそうな」納税者を調査することに

長期未接触の案件は毎年選定にあがってくる。でも、その案件がそれほど規模が大きくなく、税理士関与でないとなると、調査に選ばれる確率が低くなる。そうするとまた、来年に持ち越しとなる。

今回、紹介するのは、まさにその、長期未接触で税理士関与がない、ある士業の××事務所のA氏の案件だ。

A氏は、確定申告を始めた当初から税理士は入っておらず、以降10年間、一度も税務調査に入られたことがなかった。

「もしもし、○○税務署所得税第○部門の飯田と申します。××事務所でしょうか。税務調査の連絡のお電話をさせていただいたのですが、Aさんはいらっしゃいますでしょうか?」
「はぁ、税務署。税務署がなんの用や?」

しょっぱなの電話の応答からしてヤバい感じが満載だったが、調査に臨場する日の約束を取り付けた。