行き過ぎた言葉の暴力は会社への名誉毀損にもなる

図1:「悪口」を軽く見てはダメ!へたをするとこんな罪に問われる!
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図1:「悪口」を軽く見てはダメ!へたをするとこんな罪に問われる!

職場の悪口といってもその種類はさまざまだ。酒席でこぼす他愛のない愚痴から、ネット掲示板への書き込み、会社の内部事情を文書化してマスコミや官庁へ送付するといった事件も増えている。

ストレス発散の愚痴程度なら問題はないが、根拠なく相手を貶めたり、職場や社会に広く伝播することを狙った悪口は、職場で懲戒処分の対象となるだけではなく、民事訴訟や刑事罰に発展する場合もある。

例えば、周囲の不特定多数の人に聞こえるところで、上司や同僚に面と向かって「頭悪すぎ」「給料泥棒」などと言うのは、客観的な事実に基づかない非難として侮辱罪(刑法231条)に該当する。もっとも現実には、その悪口だけで警察が動く可能性は低い。

しかしその悪口によって職場の調和を著しく乱したり、悪口が外部に広まるような行動が伴う場合、秩序侵害行為として会社から厳しく処分される可能性は高い。部下から上司への悪口が伝播して、部下が離反して職場の統制が取れなくなれば、業務命令違反、職務専念義務違反に該当する。

図2:大企業を舞台に実際にあった判例
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図2:大企業を舞台に実際にあった判例

その一例が、「セコム損害保険事件」。入社以来、礼儀と協調性に欠ける言動を繰り返し、職場の混乱を招いた社員を解雇したことが妥当な処分であったかどうかが争われたものだが、裁判ではその社員が上司に投げかけた言葉が注目された。

直属の上司を指して「管理職としての意識が足りない」と非難したメールを会社上層部に送信したり、別の上長の行動を批判するメールの中で「社長が人前で頭を下げる日も近い」と書いた。これらに加えて、会社側の再三にわたる指導や注意にかかわらず本人の態度が改まらなかったことなどが考慮され、「解雇は妥当」という判決が下された(東京地裁・2007年9月)。

このように悪口が問題化する典型的なパターンの一つとして、部下が上司の能力不足を批判し、会社の上層部や監督官庁に言いつけるものがある。

しかし真実相当性に欠ける中傷や、公益性のない社内事情の暴露などで、相手の社会的地位が低下する事態に発展したとするような場合は、逆に本人が、上司に対してだけでなく会社に対する名誉毀損(刑法230条)で訴えられたり、秩序侵害行為として会社から懲戒解雇されることも十分ある。

もちろん、上司や会社の側に刑事罰に当たるような違法行為や社内規定に抵触する行為があり、それを公開することに公益性があれば話は別だ。公益通報として、あるいは公益通報に類似した行為と認められ、通報者は保護の対象となる(公益通報者保護法)。

しかし上司・部下の立場にかかわらず、人格攻撃的な言葉を執拗に繰り返し、周囲に広めるのは決して許されない。このことは、正しく認識すべきだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=石田純子)