7年ぶりにジェルネイルを手放した理由

緊急事態宣言を契機に、私はいつもピカピカに盛っていたネイルを手放した。この筆者は何を馬鹿なことを言い出すのか、この人類の重大時にくだらないことを等々、たくさんの「けしからん」や嘲笑が聞こえてくるようだけれど、私には大きな意味のあることだった。

「首相、緊急事態宣言へ 7日にも発令」との速報があった朝、すでに活動自粛で人混みへ出かける用事をなるべく回避していた私は、意を決して都心のネイルサロンへ連絡をし、マスク姿で出かけた。

自粛中に「意を決して」ネイルをつけてもらいに行ったのではない。2013年の欧州からの帰国以来毎月必ず通ってメンテナンスし、7年もの間、1日として私の手指の上に載っていないことのなかったジェルネイルを、すべて外しに行ったのだ。しばらく外出が困難になるから、プロのネイリストさんによる定期的なメンテナンスの必要がないように。7年ぶりに武装を解いた私の裸の爪は、薄くて少し頼りなくて、すーすーした。

ワーママにとって「たかがネイル」ではない

たかがネイル、たかが美容、たかがそんなこと。でも私の中でジェルネイルは、「仕事だけをしていればいいという身分ではない。子どもがいて、家族がいて、色々なことがあって、実際はくたびれた40代の女で、それでも仕事をし続け、人前に出続ける」というワーママの意志の表れ、武装として、重要な意味を持っていた。

大学卒業時には子どもがいて、その後専業主婦人生からライターのキャリアを始めたばかりの頃、名刺交換の時に同世代のキラキラしたキャリア女子たちの「炊事も家事も縁がない」綺麗に塗られた指先と、自分の節くれだって乾燥して爪が割れ、洗剤負けのあかぎれさえ走っているような指先が対面するたび、私は恥ずかしくて仕方がなかった。自分が素人だという気がした。

でもマニキュアなんて自分で塗ったって、そもそも主婦はマニキュアが乾くまで優雅に待てるような時間がない。つい目についた汚れを拭こうと台拭きを握って繊維の跡をつけたり、家族の誰かに呼ばれて何かの用事を手伝った拍子にヨレたり。マニキュアは、忙しい女の手には不向きだ。

だから、一度UVライトで樹脂が固まったらヨレず、すぐにコメも研げれば洗濯物だって畳める、もちろんパソコンを打つのなんてノープロブレム、無敵のジェルネイルが女性の間でどっと流行り始めたとき、そりゃそうだろうと思った。よくよく考えると、あの頃「炊事も家事も縁がない」綺麗な爪をしたキャリア女子たちも、ちょうど絶賛婚活中とかそんなだったような気もする。彼女たちにも彼女たちの理由と努力があったのだという気がする。女はみんな忙しい。だけど綺麗にもしていたい、そう思う女たちは主婦もキャリア女性も、一斉にジェルネイルへシフトした。