第2回でお話ししたように、コミュニケーションには「意味」と「意識」の部分があります。「教える」に対応するのが意味で、「伝える」に対応するのが意識です。人はあなたの言っていることの日本語としての意味が分かったからといって、動きません。あなたが意図していることが伝わって初めて動くのです。つまり、あなたと聞き手が「意識」を共有していなければ、どれだけ言葉をやりとりしても、何の行動にもつながりません。

大学の講義やビジネスマン向けの講演でも、人気のあるものは、「教える」と「伝える」の2つの要素が入っています。知識を得たいだけなら、講義や講演などに出席しなくても、本、インターネットでことたります。講義や講演が優れているのは、知識だけでなく、意識の共有ができるからです。だから、時間とお金を割いて、聴衆は講演をわざわざ聴きに来てくれるのです。知識も得たいのですが、感動したいからです。

「伝わる」ということは、相手の「腑に落ちる」ということです。「腑」とは五臓六腑の「腑」で、内臓という意味です。つまり、頭で理解するということではなく、心で分かる、ということです。単に「分かった」というだけで人は行動を起こさない理由はここにあります。人は心で納得したときに初めて行動を起こすのです。

「伝える」ができるためには自分が感動すること

人は上の立場になればなるほど部下が増え、人を動かす機会も増えていきます。だからこそ、「教える」と「伝える」の両方を上手く使い分けられるようになり、行動の中で「伝える」比率をだんだん増やしていく必要があります。

「教える」ことは、技、テクニックさえあればできることです。お金を出して別の人に頼むこともできますし、頭の良い部下に担当させることもできるのです。

仕事で感動した経験のある人が、そのときの話をすると、聞いている人たちの目が輝きます。話して本人が心から感動した話は、意識のレベルで相手に伝わります。そして「それなら私も頑張ってみよう」と行動を起こしてもらうことにつながるのです。

逆に仕事で感動した経験がなく、「人を動かすには成果主義が一番。ニンジンを目の前にぶら下げれば馬は走る」などと思っている人が、本で読んだ理屈を述べても、説得力はありません。「では、あなたがやればいいんじゃないですか」とそっぽをむかれてしまいます。

「伝える」力を向上させるには感受性をみがき、自分自身が仕事への「感動」を日々感じることが重要です。

※この連載では、プレジデント社の新刊『「超具体化」コミュニケーション実践講座』(2月20日発売)のエッセンスを<全7回>でお届けしました。

(撮影=小倉和徳)