神奈川県藤沢市にある住宅型有料老人ホーム「クロスハート石名坂・藤沢」(社会福祉法人伸こう福祉会)を、オープンしたばかりの8月に訪ねた。応対に出てくれたのは、ブラジル人女性。「いらっしゃいませ、ご用件は……」と流暢な日本語で声をかけられた。伸こう福祉会が運営する施設では、インドネシア人、フィリピン人など16カ国の外国人職員が25人働いている。
世界同時不況で、製造業の職場で働いていた多くの日系外国人が失業した。その再就職先のひとつとして、介護の現場を選ぶ外国人が増えている。全国の自治体やNPO法人が、介護分野への転身を後押しするケースもある。
例えば、三重県鈴鹿市のNPO法人「愛伝舎」が、県からの委託事業として「外国人向けホームヘルパー2級養成講座」を開催し、ブラジル、ペルー、チリ国籍の外国人が参加したことが新聞記事に掲載された。
東京都内でも、在日フィリピン人(日本で結婚している主婦)を対象に、ホームヘルパーの資格取得講座と就職先の紹介を行う事業者がこの数年間で急増している。
このほか、宮崎県都城市で社会福祉法人を運営する豊学グループは、毎年フィリピンの大学病院などから医師や看護師の研修を受け入れ、交流を続けている。
介護現場に外国人の労働力が必要になっている状況は、介護現場を見れば明らかである。介護保険の利用者は同制度施行から10年間で500万人を超えた。同時に、介護職員の必要数も急増している(図表参照)が、重労働で責任も重く、しかも給与が低い仕事につく職員は常に不足している状況だ。
介護福祉士を養成する専門学校では、定員の半分程度しか入学者が集まらない。当然のことながら人材確保のめどは全く立たないのである。
もちろん、こうした事態に対して改善策は実施されている。職員の待遇改善もそのひとつで、介護報酬の引き上げなどが実施された。しかし、実態は極めて危機的で、最近では介護施設が新設されても、職員がいないためフル稼働できない状況が起きている。入居を待つ利用者の列ができているのに、人材不足で空いたままのベッドが放置されているのだ。
2010年度から、全国各地で介護施設の緊急整備が実施されているが、これらの施設がオープンする来年以降、必要なベッド数を整備できたものの、果たして運営に関わる十分な人材を確保することができるのかが、全国の自治体では新たな問題として持ち上がっている。
こうした人材不足を背景に、国が実施したのがインドネシアやフィリピンからの看護師、介護福祉士の受け入れだ。経済連携協定(EPA)に基づいて、外国人労働者に門戸を開く政策である。
ところが、受け入れの実態に目をやるとお寒い状況としか言えない。受け入れの条件が厳しく、思ったほどに人材が集まっていない。例えば、介護福祉士として来日する資格は、母国の4年制大学または看護大学を卒業した者が対象となり、日本での滞在期間は3年。この期間中に日本語を習得し、仕事を覚え、最終的には日本において介護福祉士の国家試験を受け、合格しなければならない。そして、合格した者だけに新たな在留資格が与えられる。
つまり、国家資格を取得できなければその段階で帰国しなければならない。これだけの条件をクリアできる人がいったいどれほどの数存在するのかを考えると、外国人受け入れの状況が、あまりにも現実離れしていることが容易に想像できる。
思った以上に厳しい条件のため、実際に日本にやってきて研修を受けている外国人の何割かが、すでに帰国してしまったという事態も起こっている。