黙らず、声をあげ続けること

人の目を気にしすぎると、そうやって黙らせにかかる「呪いの言葉」に囲まれて、身動きができなくなってしまいます。「嫌なら辞めれば」「自分で選んだんでしょ」「かわいくないね」「無責任だな」等々、人は軽々しく、そういった言葉によってこちらの心を抑圧しにかかってきます。「ああ、これは呪いの言葉だな」「ああ、そんなものには支配されないぞ」という心の構えが大切です。

その上で、どうやったら実際に職場で声をあげることができるか、考えてみましょう。あなたはこれまで、学校で、アルバイト先で、職場で、あるいは家族に、異議申し立てをしたことはありますか。状況を変えようと、交渉したことはありますか。「そんなことをしたらにらまれる、孤立する」と考えて、声をあげられなかったかもしれません。

けれども、声をあげていないだけで、もしかするとあなたと同じように感じたり、考えたりしている人がいるかもしれません。

ならばまず、問題意識を同じ職場の人に話してみましょう。共感してもらえなかったら、別の人にも話してみましょう。まずは身近な人に問題意識を話してみること、そして問題意識を共有できる仲間を見つけることが大切です。いきなり上司にかけあっても、「うるさいな」と思われてしまうかもしれませんが、職場の人たちの共通の思いとして、大勢でかけあえば、上司も対応を考えるでしょう。

職場に労働組合があるなら、労働組合に要望を持ち込んでみるのもよいと思います。男性の役員で理解がないかもしれませんが、職場の労働条件の問題なのだと分かってもらいましょう。労働組合を通じて交渉すれば、経営側は交渉のテーブルにつかざるをえなくなります。

“社会通念”は私たちの手で変えていける

上西充子『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)

ヒールやパンプスは本来、業務に必要なものではありません。根本厚生労働大臣が語ったように「社会通念」として、「身だしなみ」のように考えられているだけです。その社会通念は変えていくことができます。女は結婚したら寿退職するものだとか、女は制服を着て働くものだとか、女はお茶くみ当番をするものだとかの社会通念を、一つひとつ、粘り強く、それぞれの職場で働く女性たちが変えていったように。

呪いの言葉の解きかた』には、映画やドラマやコミックの中で、黙らずに交渉に乗り出した女性たちが多く登場します。「逃げるは恥だが役に立つ」のみくりと平匡(ひらまさ)の関係も、家事労働をめぐる交渉という視点から読み解いています。言いたいことをのみ込んで我慢するのではなく、交渉して道を開いていった女性たちのストーリーを、自分の心の中に住まわせてみてはいかがでしょう。

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上西 充子(うえにし・みつこ)
法政大学 キャリアデザイン学部教授

1965年奈良県生まれ。東京大学教育学部卒業後、同経済学部に学士編入して卒業。同大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得満期退学。日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構)の研究員を経て、法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学院キャリアデザイン学研究科教授。専門は労働問題。2018年6月より、「国会パブリックビューイング」の代表として、国会の可視化に向けて取り組んでいる。2018年の新語・流行語大賞トップテンに選ばれた「ご飯論法」の受賞者のひとり。2019年、日隅一雄・情報流通促進賞の奨励賞を受賞。