支持率は昨年10月を底に上昇が続いている

他方で、仮にアンカラやイスタンブールの市長選でAKPが敗北した場合、有権者の支持回復の観点から、エルドアン大統領はバラマキ政策を強化すると予想される。ただトルコ財政は余力に乏しいため、大統領は中央銀行に対して金融緩和を求めることになるだろう。こうした展開が意識されれば、リラは暴落を免れない。

なお世論調査(メトロポール社)によると、エルドアン大統領の支持率は昨年12月時点で45%と、10月(40%)を底に上昇が続いている。通貨の下落に歯止めがかかったことや、エルドアン大統領が「カショギ事件」で米国やサウジアラビアを相手に巧妙に立ち回ったことがプラスに働いたのだろう。だが、この結果は疑わしい。

トルコでは強いメディア統制が行われており、世論調査でもエルドアン大統領に有利となるようなバイアスがかかっていると考えられるからだ。事実、筆者が昨年10月にイスタンブールで20名近くの有識者に聞き取り調査を実施したところ、ほとんどの人が大統領への不満を口にしていた。

不景気と物価高は深刻で、不満をおさえつけている

投資誘致デスクのマネージャーは「物価は本来アウトプットなのに、大統領はインプットと誤解している。本来はトルコ投資を促すべくトルコの魅力をアピールしなければならない立場にもかかわらず、むしろトルコ投資を遠ざけてしまっている。そのような政策音痴では通貨危機を招くのも当然だ」と、なかば諦めたように大統領への批判を展開していた。

銀行のエコノミストは「通貨危機によって企業の資金繰りが悪化し、銀行の不良債権が増加する。本格的な金融危機が生じるかもしれないのに、エルドアン大統領は金融安定化よりもバラマキを優先している。彼が大統領でいる限りトルコ経済は正常化しようがない」と憤りながら大統領への不満を口にしていた。

トルコの商社マンは「EUの景気が減速するのに輸出主導で持ち直すという無責任な見通しを立てたところで、誰も納得しない。通貨危機への対抗策として企業が持つ外貨をリラへ強制的に交換させようしているが、それでは企業は海外向けの支払いに窮してしまう。その場しのぎばかりの政策が目立つ」と戸惑いと嘆きを口にした。

大統領に不満を抱いているのは、特定の人々だけではない。リラ安にストップがかかったとはいえ、不景気と物価高は深刻なままだ。メディア統制のため見えづらくなっているが、大統領に不満を持つ有権者は、かなり存在すると考えられる。それが統一地方選で爆発しないとも限らないのである。