愛知県豊田市の小学校で、小学1年生の男子児童が熱中症で亡くなった。1キロほど離れた公園で「虫捕り」の校外学習をした直後だった。なぜ酷暑にもかかわらず、屋外での授業が行われたのか。学校リスクを研究している名古屋大学の内田良准教授は「『日焼け止め禁止』という学校があるように、教育現場では健康リスクより教育的効果が重視されている。その結果、重篤な事故が起きてしまう」と指摘する――。
2018年7月18日、熱中症とみられる症状で児童38人が救急搬送された宮城県名取市立下増田小学校。午前9時ごろから全校児童が校庭に集まり、市制60年を記念する人文字の空撮が行われていたという。(写真=時事通信フォト)

5日連続で「高温注意情報」が出てていた

2018年7月17日、愛知県豊田市の小学校で1年生の男子児童が重度の熱中症である「熱射病」で亡くなった。

各紙の報道によると、当日は午前10時ごろから、1年生112人が学校から1キロほど離れた公園で「虫捕り」の校外学習を行い、午前11時半ごろ徒歩で学校に戻った。その後、児童は体調不良を訴え、午前11時50分ごろに教室で意識不明になった。20分後に市内の病院へ救急搬送されたが、意識は回復せず、午後に死亡した。

その日の最高気温は37.3度で、午前9時の段階で気温は30度を超過していた。県内には5日連続で、最高気温が35度以上と予想される「高温注意情報」が出てていた。学校によると、亡くなった児童以外にも、女児3人が体調不良を訴えていたという。

なぜ学校現場で熱中症や脱水症状が起きるのか

なぜこのような痛ましい事故が起きてしまったのか。原因究明には詳しい調査が必要だ。ただし、多くの人はニュースをみて、こう思ったのではないか。「高温注意情報がでるような日に、なぜ日差しの照りつける中を歩いて、校外学習を行ったのか」と。

学校側は無策だったわけではない。熱中症対策のため、水筒を持参させ、こまめに水分を取るように指導していた。「疲れた」と訴えた児童には、声をかけ、手を引いていたという。だが、まだ体の小さく、体力も十分でない小学1年生に、水分補給だけでは不十分だった。その結果、児童が亡くなるという最悪の事態が起こってしまった。

最悪の事態は想像できないまでも、この気温であれば、体調を崩すことは十分予想される。それでも学校現場では、酷暑のなかで部活動や体育を行い、熱中症や脱水症状に陥ることがたびたびある。なぜそうなるのか。そこには、学校教育がもつ「ベネフィット(便益)」と「リスク」の価値観が、大きく影響しているように考えられる。